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□アネモネ・リング
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「俺さ…この前、セレニアの花以外で好きな花あるかって訊いたよな」
「?ええ…」確かに数日前、そんな話をした覚えはあるが、何故今そのことに繋がるのか分からずに、首を傾げる。
「これ…だったよな?確か……」差し出されたのは、色とりどりの花弁を携えた花束。
「私に…?」
「他に誰にやるんだよ…」目を丸くしたティアと、先程ルークを待っていた時のティアのように唇を尖らせたルーク。しばらく2人して黙ったままでいたが何を思ったか突然、2人同時に微笑んだ。
「…ありがとう」ほんのり赤く染まった頬を隠すように俯きながら、花束を受け取る。道中ずっと握りしめていたらしく、リボンがかけられている部分は、ルークの手の温もりが刻まれている。それが妙に心地良いあたたかさで、幸せだった。
「あの…本当ごめんな。呼び出しといて遅れて……」頭をかきながら、彼の中ではまだ清算されていなかったらしい問題を解決しようと、ティアに再びそう告げる。
「ここは『どういたしまして』と言う所よ?それに…あなたは来てくれるって信じてたもの」真っ直ぐにルークの瞳を捉えながら、柔らかい微笑を浮かべる。
「そりゃ…約束したんだから行くよ…」
「そういうことじゃないの。私は、あなたを待っている間も…ずっと嬉しくて仕方なかった」
「俺も…ティアに早く会いたいって思いながら走ってた時は、何か嬉しかったよ」恥ずかしげもない言葉を交換して、2人して真っ赤になっていたのだが、ルークの足元を見た瞬間ティアのそれは消え、代わりに小さく吹き出した。
「走った…?ああ、それでなのね」
「…何だよ?」相変わらず笑っているティアに、むっとして聞き返したのだが、指のさされている方を見て、何を言いたいのかに気付き、ルークだけが更に顔を真っ赤にする。走ったせいで、ズボンの裾は見事なまでにびしょびしょだった。
「まあ…はいてりゃ乾くだろ」
「…もう」ズボンが濡れていることを対して気にしていない様子のルークに、溜め息を吐いてそう呟くも、内心嬉しかった。服を乾かすと言う名目上、きっとベンチか何かに座るだろう。そこで、のんびりとした時間を2人だけで過ごせるのだから。


fin.
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