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□悲しい涙だけじゃないんだよ、だから笑って??
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「…ナタリアはもう帰ったのか」

久しぶりの再会が、あんなにあっさり終わってしまうとは。そんなこと思ってもいなかったので、幾分寂しげな声が漏れる。忙しく走り回っていないと落ち着かないと言いたげな行動をよくとる人だったから、それも仕方ないのかも知れない。

「あの…ガイ?」

ついつい考え込んでしまっていたガイに遠慮したのか、少し控えめな声が頭上から振ってくる。見上げると、今朝会った時とは違い疲れた様な表情をしたナタリアが立っていた。用事を済ませて、わざわざ自分に会いに来てくれたんだろうか。一瞬そんな考えが頭をよぎるが、直ぐ同じ場所で首を振った。彼女は自分がここに居ることなど知るよしもないのだから、たまたま通りすがった場所にいた自分に声を掛けてくれただけなのかも知れない。否、ここは港へ出る道の途中にあるベンチだから、それは確定的だろう。ガイは、考えついた先の事実に軽く溜め息を吐いた。

「あの……」

なかなか返答しないガイに業を煮やしたのか、半ば寂しげな声が耳に送られた。

「あ、ああナタリア!陛下との謁見は、もう済んだのかい?」

「ええ。レプリカ達を住まわせる為に大佐が研究して下さっている、音素を大量消費せず乖離もしないレプリカ大地の製造…。色々お話しなければならないことが多くて、少し大変でしたわ」

そう話すナタリアの表情は先ほど見た時と変わらず疲れたままだったが、その中にも微笑を浮かべ今は生き生きとして輝いていた。やはり、彼女は王女なのだ。今は自国のキムラスカ・ランバルディア王国だけでなく、ここグランコクマを首都に持つマルクト帝国の為にも動いているのだろう。彼女が忙しい人なのは、こういった生き方に関係あるのかも知れない。それに少しばかり距離を感じてしまって、悲しげに瞳を歪ませる。それは悟られない様に直ぐ元に戻して、いつの間にか自分の隣に腰掛けていたナタリアに微笑いかけた。

「…そうか。後はゆっくり休むと良いよ」

「ありがとうございます。ですけど、わたくし…今の生活に満足していますのよ。何だか…走り回っていないと気が済まないのです。これは、王女として失格なのでしょうか……」

「ぷ……っ」

最後の方には眉を寄せ、多分本気で悩んでいる様子のナタリアに、耐えられず吹き出してしまった。
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