たまわりもの。

□君に触れて/霜庵よもぎ様
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アイツの部屋から飛び出して、大分離れた所で俺は溜息を吐いた。

…心臓が脈打つ。

走ったから。
残念ながら理由はそれだけじゃない。

(ティア…)

先程、彼女と触れ合った指先を見つめる。

たったそれだけなのに、この胸の高鳴りとは如何なものか。我ながらへたれだなあ、と乾いた笑いがこみ上げた。

「…何だぁ。随分荒んだ顔して」
「おわっ、ガイ!?」

不意に前から聞き慣れた声がし、思わずその手を後に隠した。

「どうしたんだ。そんな顔して」
「………別に」

平静を装ったつもりなのに

「顔に書いてあるぞ。ティアの事だろ」

幼馴染みは俺の態度に笑いを噛み殺した。

「気負っても仕方ねぇよ。話して楽になるなら、幾らでも聞いてやるさ」

親友の言葉はいつも温かい。微かに安堵の込もる溜息の後、俺の口は言葉を紡ぎ出した。

「…触れないんだ」
「は?」

一瞬、「何寝ぼけた事を…」とガイが訝るのが分かった。

「いや、お前のとはまた別なんだけど…」

何か、気恥ずかしいんだ……

そう呟いて、頬が熱くなる。

「一緒に居るのは平気なんだ。でも、いざ手を握ったり抱きしめたり、って思うと…何かさっ!」


込み上げる熱を振り払うかかの様に、語尾は強くなっていた。

「…複雑な、思春期か」


からかう訳でも無く、ガイは冷静に俺を諌めた。

「お前は妙なトコで難しく考え過ぎだよ」

ふっ、と力を抜いた笑顔で言う。

「物事はもっと簡単だ。お前がそんなだと、いつか彼女の方が何処か行っちまうぞ」
「!!!」

それは、イヤだ。

「例え話だよ。そんな顔するな」
「わ、判ってるつーの!!」
「ふむ…じゃあ、俺が一つきっかけを作ってやるよ」

目の前に。
出されたのは買物袋とメモ書き。

「二人で。行ってこい」
「………は?」
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