本気だったんだ。
エミリにしてみたら、ガキのままごとでお遊びでお情けでたいしたことないモンなんだって、思い知ったけど。
俺は、本気だったんだ。
そうして芽吹く、恋の花
好きだった。
エミリが笑ったり、俺に優しく触れてくれる。
それだけで、俺は嬉しかったし幸せだった。
だから何でもしようと思ったし、不安にもなった。
お前は中々表情を変えないけど、いつだって俺の話をちゃんと聞いてくれたし秘密も守ってくれる。
だから俺はいつだってお前にほんとの気持ちを話せたんだ。
計画、のろけ、愚痴、悩み、弱音、今に至っては―――泣き言まで。
裏切られた。
いや、違うか。エミリにとったら最初から遊びだったんだし?まぬけなのは俺かよ。そっかそっか。
ちくしょう。
でも好きだったんだ。
本気だったんだ。
エミリが大切だったんだ。
「――ハナ、でた…はは」
そう笑って後ろにいたお前をふりかえった。
相変わらずお前の表情は変わってないけど、お前は俺の台詞を聞いてポケットティッシュをどこからか取出し、放る。
キャッチしてみたら、テレクラのティッシュだった。よく街頭で配ってるような安っぽいの。
「んだよ…電話、しろっ、…ってか…?」
可笑しいのに、込み上げてくんのは涙とか鼻水とか嗚咽ばっかで。
お前は何にも言わずに近くのベンチに腰掛けて、ただ俺を待ってくれた。
さっさと俺なんか置いて帰ればいいのに、お前は全然動こうとしねーんだもん。
「―――スモリぃ」
ティッシュを鼻にあてがいながら、名前を呼ぶ。
お前は顔をあげて、じっと俺を見た。
「さっき、ありがとな。―――怒って、くれたろ?」
幾分くぐもった音だったけど、お前は正確に俺の言葉を聞き取ったらしい。
あ、ちょっとビックリしてら。
へへ。俺けっこうお前の表情読むの得意なんだぜ。
「―――むかついたから」
「…ばーか」
滅多に表情変えなくても、きちんと喜ぶし残念がる時は結構見たことある。
けどお前が怒ったとこは見たことなかったから、びっくりした。
好きだったよ、エミリ。
でも、もうさよならだ。
たぶんきっとまだ引きずるかもしれないけど、なんだか泣いてたらすっきりしてきた。
ぶびっ、と鼻をかむ。
「友近」
「んぉー?」
一回畳んで、もう一度。
ぶびーっ。
「友近は、レベルがあがった」
「っなんだそのドラ●エ口調!」
「女を見る目が増した、ほんのり心にトラウマを負った」
「…おい」
真顔でたまに親父ギャグすら吐くお前は、まるで上がったパラメーターを読み上げるように喋り続ける。
馬鹿にしてんのか!と言い掛けた瞬間、かちりと目線がかち合う。
滅多に表情を変えないお前が、ほんのり唇を緩めて微笑んでいた。
「オトコが上がった」
―――え、なんだ今の。
いまドキッとしたぞ?いや、ていうか今俺何でドキドキしてんだ?
いくらお前が笑うのがめずらしいからって。なんで?
「帰ろーぜ!!」
「ん」
誤魔化すように乱暴に言い放っても、気にした様子もなくベンチから立ち上がる。
その表情は、もういつもどおりだ。
でも、俺の心臓はやかましく鳴りっぱなしで。
俺は手の中で丸められたティッシュを備え付けのくずかごに放った。
ばいばい、エミリ。
傷はまだ痛むけど、沈んだ心はいつのまにか浮上していて。
エミリへの想いは鼻水と一緒にお別れだ!
誰だ今汚ッ!とか言ったの!いや俺も思うけど!
「お前がいてくれて、よかった」
照れ臭いけど、言ってみた。
そしたらまた目を細めて、お前は笑った。
俺の心臓は、性懲りもなくときめいた。