ひとり仲間を欠いても、彼らは塔を登り続ける。

天田とコロマルを除いた男性陣の中で、ひときわ線の細い身体つきの少年の様子にこれといって変化もない。
冷たい奴だ、とか平生では言いそうな順平が、今回は珍しく少年に突っかかっていなかった。
それを珍しい、と思ったのは美鶴と真田だ。
難しい年頃だなと呟いたのは美鶴だったか。





どうやら今夜のタルタロスへ先陣をきる面子は真田、美鶴、コロマルらしい。
各々が自分の得物を確認し終え、タルタロスの上層へと飛ぶ転送機を潜れば、少年のとある変化に気づいた。

「葵、それは…」

細身の彼には似合わぬ無骨な鈍器。
それは、生前に荒垣が使用していた武器であった。
美鶴や真田の問うような視線に、少年は常と変わらぬ表情で答えてみせる。

「次の月命日までは、使わせてもらいます」

普段ならば、少年は己の体格に見合った片手剣や拳器を用いる。
勿論今まで必要とあれば槍や弓をふるう場面を見てきたのだが、鈍器は明らかに少年の手には余るように思えてならなかった。
前の使用者が体躯の大きな荒垣、というのもそう見えてしまう要因なのだろうが。


「お前にはあまり向かんだろう」

真田が素直にそう言えば、少年も素直に頷いてみせる。

「はい、だから」

ことり、と首を傾げた際に少年の髪が揺れた。




「フォローを、お願いします」















美鶴と、真田はたまらず笑った。


とんだリーダーだと、ふたりは笑ってしまった。
笑いすぎて、涙が出そうなくらいに。

「ワン!!」

コロマルも、力強く吠える。

それを合図にふたりも了承した。
少年の中にも、確かに自分たちの仲間が存在している。

その事が、無性に嬉しかった。


「オーライ!私たちがフォローしようじゃないか!」
「せいぜいお前は武器に振り回されるなよ」
「努力します」
「いいや明彦。いっそ遠心力でシャドウに大ダメージという手もあるぞ」
「それもいいな。シンジみたく片手で振り回されても微妙だ」
「そうですか?」


「「そうだ」」



先輩ふたりの言葉に被さるように、コロマルまでもが一吠えした。

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