Silver Sorcerer
□想いの宿り主
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ウェストルダム国は、フォルグドの中で乾燥地帯に位置し、一年を通して気温の高い場所である。
そんな場所で野宿生活を脱出することが出来たのは大変ありがたいことだ。
しかし、シャリオンには自分が横たわっている物がベッドであることしかわからず、ここがどこの国でどこの宿なのかさっぱり情報がなかった。
「あ…つい…」
室内の空気を循環させるように、天井でランプの周りをクルクル回っている物があるが、風はこない。
声を発した喉もカラカラで、自分の声ではないようだ。
そんなとき、水の滴る音が聞こえ、額にひんやりとしたものがあてられた。
『姫さん?』
ここちよい冷たさにまどろみつつ、タオルを乗せてくれた人物を横目で伺うと、水色の長い髪が退室していく。
『誰だ?』
見覚えのない後ろ姿を最後に、部屋の隅で監視する人物に気がつかないまま、シャリオンは再び眠りに入った。
『疲れた。
このままずっと眠っていたいな。
俺、もう頑張ったし。
…?
何を頑張っていたんだっけ?
何で眠っているんだっけ?』
「っ!!」
夢の中をさ迷っている間に、ベッドで目を覚ます前の出来事を思い出し、はっと眠りから目覚めた。
ずいぶんと寝ていた気がするが、窓から見える日の高さは眠る前と変わっていない。
ユトレイに止めを刺そうとしたあの時、突然心臓が締め付けられて気を失った。
なぜそんな異変が起きたのか、誰がここに運んだのか…答えは、部屋に入ってきた自分が教えてくれた。
「俺…?」
イヴンの姿の自分がベッド脇の椅子に腰かける。
徐々に覚醒し始めた脳が、この状況を最悪の結末へと導いた。
「まさか、俺を気絶させている間に新しい体に移したのか!!
テメェ、よくもっ…っ!?」
食って掛かろうとしたが、体をピクリとも動かす事が出来ない。