Silver Sorcerer
□求める者
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シスは苛立っていた。
眉間に皺を寄せ、いつもは隠している殺気を全開にしたまま、完全なる人型の体を手に入れた部下達が脇で低頭する廊下を歩いて行く。
後ろには大人しく耳を下げて沈んだハザンが、破けて使えなくなった服を脱ぎ捨てて新しい服に袖を通しながらついてくる。
「兄貴…ごめん」
「…」
シスの怒りが弱く人間に負けそうになった自分に向けてのものだと思ったハザンは謝罪の言葉を口にしたのだが、反応を返さない兄に慌てて前に躍り出た。
「兄貴っ」
「…お前は何も悪くない」
「じゃ、じゃあなんでそんな怒ってんだよ!」
立ち止まり、自分のせいではないと否定してくれたのはいいが、怒りの表情は収まらない上に、怒っている理由を問い詰めた直後、口を開きかけたシスのその表情がさらに険しくなり壁に亀裂が走った。
今彼の視線は目の前のハザンではなく、背後にある数メートル先の城門を睨みつけており、その巨大な城門にも亀裂が入り真下で嘆く者が三名居た。
「きゃ!やっだ〜★お城の扉にヒビが入ったー!
お気に入りのデザインにしてたのに〜★」
「チッ、修理などとくだらない仕事を俺に増やすな」
「とうとう建てつけが悪くなった…というわけではないようですね」
部下を引き連れて戻ったリリックとリガーに続き、ゼノンも姿を現し、悪魔の幹部が帰城したことで人型達が黙り込む。
悪魔達は黙り込んだものの、その反応は二手に分かれた。
単純に彼らから感じる強大な力に恐れを抱き言葉を紡げない者達と、シス達兄弟を支持する者が元魔法貴族を忌み嫌い距離を置く者達だ。
特に今はシスが殺気を三人に向けている為、後者の勢力の方が強い。
しかし、そんな殺気など気にもしないように、当の三人はそれぞれの台詞を言いながらシスに目を向けて堂々と目の前まで歩いてきた。
「シスちゃん、眉間に皺なんかよせてらしくないわよ★
暴れ足りなかった?★」
「おいバカ女!!喧嘩売ってんのか!」
「バカにバカって言われたくないし!
それに、喧嘩売ってるのはそっちでしょ〜?★」
ふんっ!とリリックが腰に手を当てて見下すと、ハザンがこめかみに青筋を立てて一歩を踏み出したが、それを素早くシスの腕が引きとめた。
なぜ止めるのかと不満げな表情でハザンが顔を上げると、シスはハザンを見ずにじっと三人を見つめており、リガーが億劫そうに口を開いた。
「ここで言えない事なら、殺気も隠したらどうだ」
確かにシスはこの三人に今すぐにでも聞きだしたいことがあるのだが、部下達のいる前で問いただすのは悪魔の統率意識を低めることとなってしまう。
上がもめれば、下も混乱する。
わかってはいるが、どうしても殺気を押さえる事が出来なかった。
だから、瞳で訴えかける。
『貴様ら、初めからハザンを見殺しにするつもりだったな』と。
それを感じ取ってこその態度なのか、リガーはどうでもいい事のようにシスを追い抜いて黒い廊下の先へと消えていき、リリックもハザンに舌を出して子供じみた嫌がらせをしたものの、彼と一緒にその場からいなくなってしまった。
ゼノンも二人の後を追うように足を進めたが、シスの隣を通過する時に小さく呟き、いつもの笑顔を残して消えていく。
「君のその賢明な判断が、姉と弟の命綱ですよ。
私は君を応援しています」
応援していると言っても、その言葉の意味はいつでもお払い箱行きになる可能性があるということなのか、シスはぎりっと奥歯を噛みしめた。
しかし、本当に何を考えているのかわからず、警戒しなければならないのは…
「姉貴!!」