Silver Sorcerer

□最強の魔法使い
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魔法というものは本当に便利なもので、大昔に建てられた建物でさえも当時のままの姿を保つ能力を持つ。
約300年前まで多くの戦士を魅了した『この場所』も、今や国宝という冠をいただいて維持管理されていた。
大きさの揃った白い岩が均等に並べられ、円形状になったこの建物は、昔、魔法使いの頂点を決める『武術世界大会』が毎年行われていたコロシアムであり、多くの人々が足を運んだ場所であった。
そして、『最強の魔法使い』という異名を持つ英雄が誕生した土地でもある。
最強などと大げさな異名だという人間も数多くいるが、当時を知る長寿のエルフ達は彼に相応しい名だと口を揃えて言うだろう。
夕日が沈む中、異様な静けさに包まれたコロシアムに立つエルフもまた同じ事を思い、観客席から赤く染まる闘技場を見つめた。
今にでも歓声が聞こえてきそうな感覚に目を閉じ、『最強の魔法使い』と呼ばれる人物の姿を浮かべると、二名の魔法貴族が現れる。
片方は、最強の魔法使いとダブルスを組み、彼をずっと支えてきた者。
フォルグド中から集まる何万という数の魔法使いの中で頂点に立ち、魔本封印に乗り出すまで一度も彼らが負けた姿を見た事がない。
そのうち、脳裏から長身の魔法貴族の方が消え、三冠を保持しダブルス戦でも二冠を取得するという偉業を成し遂げた…と現代に伝えられる『最強の魔法使い』ルワン=ドレークだけがエルフの脳裏に留まる。
黒いスーツから、金色のエンブレムをあしらったネクタイが風になびくと、エルフは目を開いて踵を返した。

「『最強の魔法使い』という異名を得て、あなたは何を思い、私の弟子と戦うのでしょう…」


今から300年前。
フォルグド歴5125年3の月、英雄ルワン=ドレーク永眠。


そして…


5425年6の月、封印が解かれ、最強の魔法使いは蘇る。





白い大地にぽつりと佇んでいたイヴンは、妙な静けさに周りを見渡した。
何の音もしない。無音の世界。
雪の大地に立って、空は重なった雲で日の光を通さないというのに、吹雪いてもいないとはどういうことだろうか。
それに、一緒にいた姫やメアリ達、隊員達はどうしたのだろう。
残されたのは、嫌に大きく響く自分の心臓の音と不安だけだ。

「姫様!メアリ!
アシェリーさん、ソイルくん!
ビルマさんっ…皆どこにいるんですか!」

叫んでみても返事はなく、イヴンの言葉は虚しく雪に吸収されてしまった。
不安に駆られて何の目標もないまま足を進めていくと、視界の端に黒い影がちらつき、その度にイヴンは振り返ったが、何も居はしない。
その代り、いつのまにか焦げくさい臭いが鼻につき、黒い煙が辺りを覆い始めたではないか。

「っ!!」

足元には人、人、人…無残な姿に変わり果てた隊員達が横たわっており、記憶が整理されていく。

「そうだ、俺がっ…!」

イヴンは左手で顔を覆うと、自分の力のなさで失った命の存在を思い出し、地面に膝をついた。
死傷者を出してしまったという後悔に押しつぶされそうになる体に、突如発生した吹雪が襲い掛かる。
そして…

「さて、ガーディアン。
姫を守れるかな?」

「っ!!」

頭上に迫った黒い影に反応して顔を上げると、二度と見たくなかったアンシャンの金色の瞳が笑みを浮かべているではないか。
その瞳は、いつの間にイヴンの前に現れたのか両手を広げた長髪の女性を捕えた。
揺れる女性の髪は銀色を纏い、悪魔の当主を目の前にしても退こうとはしない。
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