REVENANT

□因果応報
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魔界、天界、神界、人間界
魔族、天使、神族、人間

この世には人間の介入できぬ場所があり、知り得ぬ種族が或る。
貴方はご存知だろうか?
魔族が人間の住むこの世界を手中に収めようとしている事を。
天使がどんな存在か。
神は一体何処で何をしているのか。
そして我々人間にどれだけの価値と存在意義があるのか。
そもそも存在意義とは他者が他者を客観的に見て初めてその価値が解るもの。
例えば人間や悪魔という大きなくくりで表した時、悪魔から見た人間は、人間からみた悪魔は、あるいは天使から見た人間は、一体どれ程の価値があり、その存在をどう考慮しているのだろうか?

貴方は考えた事があるだろうか?
人間の愚かさについて。

人外なる者達の存在について。



東京・新宿

眠らぬ街は時間を知らず常に雑踏を絶やさない。
歓楽街、ホテル街、そして彼女は駅周辺ショッピング街、に居た。
夜11時を過ぎた頃、まだ歩くのも難を要するその道を歩く。

彼女の家庭は少し問題があった。一見仲の良いように見える家族、だがその実、虐待と言うまでもいかないが、母親に虐げられ、子育てに無関心な父親は助けることはせずただ目を背ける。弟は出来が良く両親に愛されて、だがそれが大きな劣等感を更に彼女の心に植え付けている事など誰も知らない。それは彼女の弱味を見せない性格と無表情で多くを語らない唇の所為もあるのだろう。

―死ね

本気なのか売り言葉に買い言葉だったのか、母親は彼女にそんな言葉を吐き捨てた。
人はそれぞれ存在する意味があり、その意味を探しながら生きていくものだろう。だが、今の彼女にはそんな勇気すらなかった。

―死ね

母の言葉を思い出すだけで胸が軋み痛い。不意に目頭が熱くなるのを感じ駆け出す。
人気のない路地に入り声もなく表情を変えるでもなく涙を流す。
悲痛の叫びを自らで飲み干し、誰にも打ち明けることなく、心の闇に沈める。
そうすることで今まで自分を守ってきた。
助けてと手をさしのべても誰もその手を引いてくれることはない、なら己で全てに決着をつけて生きていくしかないのだ。
その為に必要な心の強さにも限界はある。誰かに訴えかけたくて、気付いて欲しくて、傷付けた手首にまだ痛みが残っている。
痛みが一瞬でも心の苦痛を忘れさせてくれるなら、誰かが気に留めてくれるなら、そう思っていた。だが、現実には自傷行為が何かを癒すことなんてない。ただ自分を傷付けるだけだと、今更気付いてしまう。
痛みも悲しみも癒さない、只の傷跡、心にも、軆にも己が好んで傷を残している、全て自分が招いた結果。
それが現状なのだ。
だからと言ってどうしたらいいか解らず、何をすれば変わるかも解らず、流されてきた結果なのだ。
そんなことは分かっているでも、それでも傷付くのは自分自身、痛むのはこの心。
胸を押さえて屈み込む、暗い路地裏で、誰にも悟られないように。
喉頭から出る微かな泣き声さえ押さえ付けて。
こんな時妙に寂しくなる誰か側にいて欲しい、いつもは強がって突き放すというのにあまりに利己的な考えに、涙ながら苦笑する。
でもこころに空いた空洞が独りでいることを拒絶して痛む、いったいどれだけ心の痛みに堪えたらいいのだろう。
「……っ……ぅぅ」
我慢していた声が堪えきれないとばかりに発せられ。小さな軆が震える。
「だ、れ……か」
涙の所為で聞き取り難くなった声で誰もいないその場所に呼び掛けてみる。
無論、誰が返事をする訳ではないし、気持ちが満たされる訳でもない。ただ空に消える声が虚しいだけだ。寂しさを更に強めるかの様に、風が吹き抜け、彼女の肌を冷気で覆う。
「だっ…………れか、助け……て」
誰もいない暗い路地に寂し気な声だけがまた響く。
「もう……生きてるの、辛い」
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