REVENANT
□一念発起
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神無が魔族となってかなりの時が流れていた。恐らく数日から数十日はなっていただろうが、神無には正確な時が分からなかった。
魔界は常に外が暗い闇に包まれ、月は位置を変えず少しずつその形だけを変化させていたからだ。
その間ただ寝ては起きての繰り返し、たまにバルコニーに出てみるが外は冷え込んでいてろくな衣服を与えられていない神無に長居は出来なかった。衣服はまだいいが食事はまったく出されていない、それなのに痩せ細る事もなく眩暈もしない、空腹感はあるがそれだけなのは魔族の軆のなしえる技なのか。
スティーナとギルヴェールもあれから姿を見せない、やはり人間の自分を嫌悪してなのかもしれない。
元々無口な神無は誰も話す相手もいないのが苦痛、と謂うわけではないが、寂しさは募るばかりだ。
「いつまでこうしてるんだろう」
ぼやく言葉も虚しく闇に溶けて行き、虚無感が増すばかり。
此処はあまりに孤独だった、周りに人が居れば鬱陶しいが居なければ寂しい、結局は無い物ねだりなのだ。
だがこうしていれば罵られる事もない、泣かなくてもいいが、笑う事も幸せに感じる事もない。そうしているうちに感情を忘れてきてしまったかのように、神無の表情は冷ややかになっていた。
(何かすることないかな)
辺りを見回して見るが変わりないいつもの風景、ただこの部屋にある家具には一切触れていなかった。高価そうなクローゼットやテーブル、ソファにベット、花瓶、サイドテーブルこの城で一番質素な部屋とは思えない。
(開けてみてもいいのかな)
クローゼットの取っ手に手をかけておもむろに開いて見る。そこには幾つかのカジュアルドレスと上着が入っていた。
(綺麗……)
きっと先日会った上流階級の魔族にしたら安物なのだろう、だがドレスの布地はすべらかで触り心地が良くそれを見ただけで新鮮な気持ちになれた。
背伸びをしてドレスを中から出すと丈が長く神無には大きいようだったが、それでも一枚の布に穴を開けただけと言っても過言ではない今の格好でいるよりこのドレスを纏ってみたかったから、暖炉の前でそれを身に付けてみた。
黒い布地は柔らかで、光沢があり、暖炉の火を映してキラキラと光る。袖の付いたベアトップで胸の中心に同色で薔薇の飾りが付いている。丈は思った通り長く、袖も神無の指先まで覆ってしまうが先程までの服より暖かくて豪奢、何より気持ちが高まって楽しく思えた。
「神無」
聞き覚えのある声、何より自分を神無と呼ぶ魔人は二人しかいない。
「スティーナ?」
まさかと思って振り向くとそこにはフワフワと宙に浮く幽霊二人。
「似合うじゃないか」
ギルヴェールが寄ってきてドレス姿の神無を見てニコリと笑ってくれた。
「え……そうか?」
照れて上擦る神無の声に二人はクスリと笑い、神無の前に並んだ。
「今まで二人で話合いをしてたの」
「そして決めた」
真摯な面持ちで、しっかりと見つめてくる。
ダブダブのドレスを着た自分が何だか間抜けにだ、と思いながら、だが真剣な眼差しを返した。
「私達貴方の霊獸になるわ」
「そして君の行く先を共にしたい」
意味が分からなかった、人間である自分と一緒にいると言うことだろうか。
顔をしかめて首を傾けた神無にスティーナが破顔して顔を近付けて言う。
「貴方と契約したいの」
「……契約?」
疑問符で返したが人間の神無にも何となしに分かった、だがやはりそれがどんなものかまでは、解らない。
「契約の仕方も調べて来たから心配ないよ」
ギルヴェールがスティーナを見て笑顔を向けると彼女はコクリと頷いて答える。
「呪文言うから後に続いて唱えてね」
「ま……待て」
「何よ?」
何だか一方的に事を進められているが、肝心の神無はまだ了承した訳ではない。何がどうなってこんな展開になっているのだろう。
首を傾げている神無に顔をまた近付けてムスッとしたスティーナは容赦なかった。
「四の五の言ってないでさっさとやる!」
自己中心的と言うか、強引と言うかは不明だが、横にいるギルヴェールも顔を引き攣らせているあたり多分魔族から見てもかなり変わった性格の様だ。