REVENANT

□隔靴掻痒
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荒廃した大地に戦いの爪痕が無惨に残る。
魔族は死ねば灰になる。
屍すら残さないものの血まみれの鎧や服が地に這いづっていた。
その場所から少し離れた小高い丘に騎乗した青年が退却していく相手軍を睨んでいる。
普段穏やかな彼でさえこの惨状で笑っていられないのは当たり前だ。

「クラウス、もう行くよ」
「父さん……僕は間違っていないだろうか?これでいいのか?」
「……何とも言えないね、戦いに正義も敵もない。ただ自分のすべき事を信じてやるしかないんだよ」

クラウスと呼ばれた青年は何も答えずに目を瞑って綺麗な蒼銀の髪を風に揺らした。

「クラウス、お前は自分のやっている事が過ちだと思っているのかい?」

数度首を横に振って目を開ける。
前髪で隠された片方の瞳は見えないが人で在らざる者と証明するような深い緑の瞳がまた戦場を写し出す。
こんな惨劇を繰り返す事が正しいとは思わない。だが殺らなければ殺られる。
そんな世界で、多くの者を率いているのだからこれが間違っているとすると自分に着いて来ている民を犬死にさせる結果になってしまう。

「僕はこれでいいんだ」

自分にいい聞かせる様に言って手綱を引いて馬を反転させる。
そるに続いて彼の父親もその場を後にした。

戦場とはただ残酷で失うばかり。
だが、一度其処に立ってしまえば後は生き残る為に戦うしかない。
死の恐怖と殺す恐怖。
二重の重みを背負って自分の帰りを待つ人達の元に帰りたいとただひたすらに願いながらも二度と愛する者の元に帰れない者を増やしている。
これ以上は無意味だと分かっていても矛盾する気持ちを押し殺して。
そんな状況を早くなんとかしないといけない。
クラウスは焦っていた。
このまま流浪し続けて、戦い続けて、悲しむ者を増やさない為に、安住の地を見つけなければならない。
だがこの魔界に安住の地を求めるなど無理難題。
だとしても信じていれば必ず手に入る。方法はあるのだとクラウスには何か確信めいたものがあった。
明確な方法を知ってる訳ではなくてもそれに賭けるしかない。

「全軍撤退!!安全な場所で夜営の準備をさせろ!」

テノールを響かせて指示を下すと、それを聞いていた兵士達が伝達に走る。
クラウスの軍には元々兵士だった者もいれば只の農民だった者もいる。
最初はぎこちなかったが、最近は慣れもあって全てがスムーズに進む。
兵士達の動きにこの先の安心を覚え溜め息を洩らす。

「貴方の休む場所はもう確保してあります。移動しましょう」

灰色の髪に猫の耳、魔界では変わった形状の服であるチャイナの様な物を着ている。
彼は飛羽。例によってクラウスに着いて来た者だが軍師としての腕を買われて指揮を取る地位にいる。
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