REVENANT

□因果応報
2ページ/7ページ

―ならばその軆私に―

何処からだろう、そんな声が聞こえた。
顔をゆっくり上げて見回して見るがやはり誰もいない。裏路地の、しかも物陰に隠れた彼女を見付けられる筈なんてない。そのかすれたその声がその場所から遥か遠くを歩く人間に聞こえる筈もない。
気の所為に決まっている。
もう一度うつ向いて、涙を拭い、また見回しす。
「……っ」
ついに幻聴まで聞こえだしたのだろうか。自分の精神がそこまで追い詰められているとは、何故だか酷く虚しい。
だが……

―バサッ―

そこに現れた黒衣の少女に懸念は欠き消される。
自分よりずっと長身だがまだ幼さの残る、顔と声。
髪の色は薄い紫、目は悲しい程に澄んだ青。人の子にはありえない美しさがある。そしとその美しさが、彼女は人間ではないと、妙に納得させた。
「その軆、私に」
先程のはやはり幻聴ではなかった。
差し述べられた手が眼前を覆って美しい姿は見えなくなるが、不思議と恐怖はなかく、静かに目を瞑る。

嗚呼、これで終われる

この下らない茶番劇から

身を引ける

何故かそう思うと酷く穏やかになれた。
「クス……」
黒衣の少女が笑うとそこで意識が途絶えた。
何が起こったのかよく分からなかった。
だが、まだ意識が在るようで、ぼんやりと死とはこんなものだろうか、と思う。妙に静かで、恐ろしい程に誰もいない空間に迷い込んだ様な、そんな不思議な気分だ。
「フフ……これで……」
聞こえてきた声に慌てて双眸を開けると、目の前には見慣れた自分の姿。
どういうことだ、と辺りを見回すがいつもの街並み、遠くを歩く人々、街の灯りでさえ変わりなく見える。
ただ違うのは、自分が目の前にいる。
(ではこの私は一体?)
やはり死んだのか、死んで魂がこの情景を見ているのかもしれない。
ビルの谷間を吹き抜ける風が二人の髪をなびかせるて気付く。
(生きてる!)
自分の掌を見るがいつもと違う、次に軆を見下ろすとやはり……
黒衣を着ていた。
「これは?」
声もいつもより低く髪が長い、膝辺りまで伸びた蒼い髪が更に混乱を招く。
「怖がることはないわ、軆を入れ換えただけ」
いつもは自分が発している筈の声を他人が使っている、自分の黒い髪と瞳も知らない誰かが我が物顔で所有している。
「そんな……」
言葉を続けるにも何を言っていいか解らず黙り込んでしまう。
「今日から貴方は魔族、誇りをもつといいわ」
気品ある喋り方が気に触る。
誇りを持て?いきなり言われても現状が飲み込める筈なく拳を握り絞め歯を食い縛り怒りを露にしていく。
「私は……これで…………っ!!」
とっさに腰にあった剣を抜いて目の前の自分に向ける。
「自分だけの世界で自己満足するな」
静かに、低い声で言葉を向ける。
「勝手に出て来て勝手軆を入れ換えて、自分は満足だろう?だが、私は……私は……」

どうすればいい!!

声にする事が出来ず、そのまま剣を振りかざし空を斬る。
次の瞬間には、自分の軆が二つに引き裂かれ、地に落ちるのを見た。
怒りのままにしたその行動だったが、これでもう元には戻れない。
頭が痛くなって足がおぼつかない、眩暈がする。一度に衝撃的なことが起こり過ぎて、精神が悲鳴を上げている。
「……っ」
力が抜けて、倒れる寸前、白い布の様な物が目の前にはためき、静な声がした。

―悪魔の魂のようですね―

黒い光が見え、空に上がって行くのを見る。
まるでこの自分を嘲笑うかの様に高らかに、そして誇らしく見えた。



「それで?魂が入れ換わったのを連れ戻したのか?」

「仕方あるまい、そのままにして天使に見付かると都合が悪いのだ」

「まぁ……確に、あいつらは小煩いからね」

話声が聞こえて重い瞳を無理に持ち上げる、朧気に視界が開け、見たこともない景色が飛込んでくる。
天蓋付きの大きなベットに寝かされ心地好い柔かさに包まれて、部屋は大きく何畳と謂う測り方では恐ろしい数値になるだろう。
おもむろに起き上がって、もう一度辺りを見回す。ベットから離れた高級そうなソファに腰を下ろした三人の綺麗な顔の男とその後ろに控える二人の男が目に入ってくる。
「目が覚めたみたいだね」
ソファに座っていたうちの一人が立ち上がって歩いて近付いて来るのを只なんとなしに見ていた。近付くにつれて明確になる姿はやはり人間には有り得ない美しさがある。
切長の紫の目、襟足だけを肩に触れる程度に伸ばした淡い翠の髪、190はある背丈は威圧感を持って見える。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ