REVENANT

□一念発起
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そうしている間にもスティーナは呪文を早口で紡ぎ始め、残された二人はポカンとスティーナのその唇を見つめていた。

「覚えたわよね!」

やはり強引と謂う言葉の方が適切だろう。
かなり長い呪文だった、普通だったら突っ込みの一つも入れたいところだが。
無口な神無は黙って視線だけを返していた。

「ほら!唱えて!」
「スティーナ……」

ギルヴェールも霊体になってから彼女とは長い付き合いだ、彼女の強引さは知っているがさすがに呆れて物も言えない状態のようだった。

「我、其との盟約を望む者、知を分け、力を分け、共に闘い、その比類なき力を我が物とすることを誓い我が隷属となれ、だろ?」

今度はスティーナの開いた口が塞がらない。
まさかあれ一度で覚えていたとは流石に思わなかったからだ。
だが驚いているのは束の間、スティーナとギルヴェールの軆が僅に光り意思に反して地へと落ちて行く。
二人は神無の下腹部辺りを見る位置で止まると額に複雑な紋様が現れる。

「…………」
「…………」

初めての経験に霊獸二人も唖然としてしまっている様子。

「契約、出来たのか?」

元々人間だった神無には目の前で超状現象でも起きたかのように見えていた。

「出来たみたいだね」

まだ実感が湧かないとばかりに呆気に取られた顔をして、神無を見下ろす位置に戻る。

「取り消せないのか?」
「………………」

今契約したばかりだと謂うのに取り消すなどとはどういう事か。冷たい視線が神無を突き刺す。

「なぁに?私達が霊獸じゃなにか不満でもある訳?」「私が死んだら二人はどうなるんだ?」

既に死を宣告されている神無にとってそれが心配の種。自分が死んで隷属となった二人まで巻き添えにしてしまうなら直ぐにでも取り消したい。

「大丈夫よぉ、私達はもう死んじゃってるから」

相変わらず明るい口調だったが何故か胃の府に落ちない神無、眉根を寄せてスティーナとギルヴェールを注視した。

「ご心配なく、我等の主」
「本当に二人は大丈夫なんだな?」

神無の強い視線をしっかり捉えて頷く二人には何か揺るぎない決意のようなものを感じる。
神無にはそう見えた。

「それより、城の中は見て回った?」

話しを反らされた気はするが、スティーナの質問に首を横に振ってる答える。

「もったいないよ、少し気晴らしに中庭に散歩なんてどうだい?」

散々城観光をした霊獸には案内することもお手の物。
「でも、外に出ていいのか?」
「部屋の外に出たらダメって言われてるの?」

スティーナを見たまま、また首を横に振る。

「ならいいんじゃないか?ただ着替えないとね」
「そうね、大き過ぎるものね」

引きずる程の裾と指先を覆う袖のままではあまりに格好が悪い。
神無も自分の姿を見下ろして苦笑して、小さく頷く。
「ん〜……小さいの無いのかしら?」

素早くクローゼットへ移動したスティーナは扉を開けて物色を始め、その後からギルヴェールもクローゼットへ行き二人並んで神無に合う服を探す、がやっと見つけたのは子供サイズの軍服。

「仕方ない、これしか無さそうだよ」
「女の子が軍服?」

ギルヴェールが取り出した服に不服そうに顔をしかめるスティーナ。

「別に、何でもいい」

特にお洒落に興味の無い神無には、サイズさえ合えば動き易い方が楽だとすら思えた。
ドレスも綺麗で好きだが自分に似合うとはあまり思えなかったから。こんなドレスを着るには余りに色気やしとやかさに欠けている、そう思った。

「今度そのドレス裾上げてあげるわ」

ニコリと笑ったスティーナが軍服をギルヴェールから受け取って神無の元に戻ってくる。

「ギルヴェールはあっち向いてて!」
「やっぱりか」

少し残念そうに呟いて透けた軆の向きを変える。
やはり半透明の軆でも後ろまでは見えないものなのだろう。

「さぁドレスを脱ぎましょうか」

スティーナの手伝いでドレスから軍服に着替える。
青味がかった黒の軍服は神無の蒼銀の髪を綺麗に映し出し胸の金色のボタンと左肩に掛る金糸の縄は気品を引き出す。
ドレスより少し重みのある軍服には気持ちを引き締める効果があるように思える。

「準備よし!」

スティーナの言葉で振り向いたギルヴェールも神無のその精悍な姿に一瞬驚き、直ぐに柔らかい笑顔を作る。

「では、行きましょうか」


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