REVENANT

□跼天蹐地
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いつもより城が騒がしい、霊獸二人はその様子を見送りながら城の中を徘徊していた。
神無も誘ったのだがまるで何かに遠慮しているように拒絶していて無理矢理部屋から出す事は酷に思えて彼女は置いて来たのだ。
あの夜、中庭での一件以来いくら誘ってもそんな調子で、部屋に篭っている。それは神無自身にとって良くない事であるから、毎日声をかけるようにしているのだが。

「何かあったのかしらね?」
「さぁね……探ってみるかい?」

ギルヴェールとスティーナは高い位置から廊下を右往左往している兵士達を見て会話を始めるが、兵士だけが慌ててメイドや使用人が比較的冷静である様子から軍事に関わる何かがあった事は確信を持てた。
一度顔を見合わせた二人は移動を開始する。
向かうのは大魔王の部屋、これだけの騒ぎになっていれば必ず大魔王も関わっている筈、そこに行くのが一番手っ取り早くこの状況を把握出来ると思ったからだ。



大魔王の執務室は、外の騒ぎが嘘の様に静かでいつもと変わりない。
違うとすればそこに居る四人の表情だろうか。
必要以上に大きな木製の机に座った大魔王、その正面、机越しに立つ重臣であるアリイとレザルトは静かに大魔王シバの言葉を待っているようだ。

「配備は終わったのか?」

だが口を開いたのは其処から離れた場所にあるソファに座る魔王ジル、美しい桃色の髪にガーネットのアッシュが入った髪を揺らしてアリイがジルの方を向くと彼は小さく頭を下げてから言う。

「はっ、警備兵の増強、偵察隊の派遣共に滞りなく完了いたしました」
「ご苦労」

長い足を持て余すように組んだジルは短く返すと父であるシバを視界に入れて口を閉ざす。
だがそのシバは特に思いあぐねるでもなく表情を変えずに背持たれに體を預けて下腹部に両手を重ねただ鋭い瞳を光らせていた。
どんな状況下に於いても焦る事なく判断を下すのが最高位に立つ物の在り方だとするならば、理想的な態度だろうとも言える。

「捕えた侵入者は何か吐いたか?」

今度こそ大魔王であるシバの声が響き一瞬にしてその場の空気が重くなった。
いつもより低く放たれた声には真摯で悠々閑閑としている。
数時間前に捕えた魔人は兵士になり済まして城に潜り込んでいた。
だが、訓練の際に行われる身分証明に引っ掛かり他国からのスパイである事が分かった。
魔界各地には反大魔王派、と呼ばれる国が今だいくつもあり魔界王家が全てを支配している訳ではない。魔界は広大であるが故にそれだけの民もある、なればそれだけ賛否両論であるのは仕方がない事なのだが、このような事態があるだけにシバやジル達が苛立ちを隠せないのも事実。
確実に魔界を統一するには大規模な戦争をまだいくつもこなさねばならない。だとしても統一したからといってまた反感が起きないとも限らない。
結局は鼬ごっこなのだと謂う事も分かっている。
分かっているから今は目の前の問題んなんとかしてその先を考えなければならない。

「申し訳ございません、まだ有力な事は何も」

レザルトが深く頭を下げてシバに申し立てる。
それを無言で只、見遣るシバは返事はせずに目を瞑って珍しく溜め息を洩らしていた。

「城に侵入者が入り込んでたのね」
「あぁ……一度神無の所に戻ろう」

霊獸の二人はその様子を上から見下ろして、顔を歪ませていた。
何故か急に神無が心配になって勢い良く部屋の壁を通り抜けて廊下を疾走し、中庭の角を曲がって彼女の居る端部屋へ。
だが近付くにつれて大きくなる胸騒ぎ、辺りは静かでいつもと全く変わりない、だが変わりな事が今の二人には異変にも思えて仕方がない。
何もないように、何も変わりないように祈った。部屋に入るといつものように物静かな彼女がいて悲哀に満ちた瞳でギルヴェールとスティーナを向かえてくれる、そんな見慣れた光景を。
真っ直ぐに真っ直ぐただ廊下を抜けると見えてくる突き当たりにある大きな窓、その横にある扉、だがその扉まで行かずに部屋のある壁をスルリと體をすり抜けさせて中に入る。

「神無!?」

スティーナの高い声

「神無!!」

ギルヴェールのテーノールと続く。
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