魔法

□君と僕との距離
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¨スニベルス¨      

そう彼女に初めて言われた。
グリフィンドールの他の連中
には幾度となく言われた言葉
だが、やはり言う人によって
自分の心情も大きく変わるん
だと思わせる。      

そもそも自分が彼女に対して
悪態を吐いたのが原因なのだ
が。           
僕を庇ってくれた彼女をあん
な風に罵るしか出来ない自分
がとても滑稽で仕方ない。 
心では感謝し過ぎる程に感謝
しているのに…、     

暗く湿った想いばかりが、波
紋しながらゆっくりと身体を
蝕んでいく。       
肺に溜まった息を大きく吐き
出すと、いくらか楽になった
ような気になった。    


「セブ…?」


ひたすらの闇の中で、煌びや
かな音がした。      
自分が望んでいる人物ではな
いにしろ、少し視界が明るく
なったのは確かだ。    


「珍しいね、セブが私を呼ぶなんて」


僕の顔を覗き込みながら、ふ
わりと笑う彼女は、普段から
僕のことを好きだ、と飽きる
程に口にする。      
だからなのか、僕は彼女を呼
び出した。        

そう、僕は最低だと知ってい
りながらこの少女を利用しよ
うとしているのだ。    
彼女が僕を好いているのを良
いことに、純粋な想いを踏み
にじろうとしている。   


「…急にお前の声が聞きたくなったんだ」


少しの本音と大きな嘘を混ぜ
合わせ、言葉巧みに彼女を騙
す。いや、惑わすの方が無難
かもしれない。      

そっと、彼女を抱き寄せると
耳元で撫でるように言葉を紡
ぐ。           


「お願いだから、
僕から離れないでくれ…っ」


本当にこう伝えたかったのは
リリーで、彼女ではない。 
しかし、今はこの寂しさから
孤独から救い出してくれるな
ら誰でも良かった。    

利用できるものは利用する。

そうやって生きていけば、こ
の苦しみから逃れられるはず
なのに…         
何でこうも胸の奥が痛むのだ
ろうか。         

彼女を抱き締めた腕が微かに
震え始め、無償に泣きたくな
った。          


「私がいるよ、セブルス。
例えリリーのかわりでも、
あなたを助けたい」


幾度か僕の髪を撫でつけなが
ら、幼子をあやすような優し
くあたたかい言葉達。   
その動作に、口調に、我慢仕
切れなくなった涙がするりと
頬を落ちていった。    


「リ…リリー、
リリーリリーリリーリリー、ッ」


堰を切ったように、リリーの
名前ばかりが口先から零れて
いく。          
腕の中に居るのはリリーでは
ないのに、いくら願ってもリ
リーが僕の隣に居ることはな
いのに、僕の中はこんなにも
リリーで溢れている。   



君と僕の距離はあまりにも、
          きくて

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