short

□菊花乱舞
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「さいなら」


菊の花はあっけなく散った。花弁をたくさんつけた、大輪の菊。
黄金色の、乱舞。






「乱菊」

いつだってギンはきまりが悪い事は絶対に話さない。
大切な事は何一つ言わないで黙って出て行く。どこか遠くへ。アタシの知らないところへ。




「ごめんな」

“巻き込まない”なんて生易しい言葉じゃなくて、「関らせない」。
隠し事が露顕すると、あっさり心にもなく謝る。




ギンに置いていかれたあの日、アタシはあの菊の花がちぎり捨てられていくのに似ていた。花占いのように。


そうしてまた、ギンはアタシを置き去りにした。


あの時は見つけ出せた。でも、もうギンはアタシの手の届かない所に、消えた。
次に会った時はきっと、アンタとアタシは敵同士。もう戻れはしない。







アンタはいつだって柔らかくて冷たい銀(しろがね)色。

アタシはいつだって乱れ咲き散る菊の花。








知っていた?
私は美しく花弁を広げる大輪の菊の花なんかじゃない。
本当は、菊酒に入れるような小菊だって事。





それでも。
私の内に未だ眠る大輪の菊がギンの夢を見せる。懐かしく、遠い記憶の夢。
内側に向かって撓(しな)るその花弁は今でもギンの思い出を抱いている。



散ってしまわぬように。



でも再び、菊の花はあっけなく散った。
菊の花よ、どうかもう一度夢という幻を見せて。













彼の散らせたその花を掻き集めて、もう一度この胸に抱(いだ)き眠ろう。




























fin.

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