君がいるだけで(Main)

□心の鏡
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俺のいるところまで、
はっきりとした声は届かない。

ただ。
井上を囲む女子の声が怒声に近くなってきたのは確か。
井上に向かって大きな声でがなりたて。
それに対して井上は。

冷静に何かを言い返している。


そして・・・・。


俺は。

見た。


女子の1番後ろにいる奴が。
きらりと光るもの・・・・・・ハサミを持っているのを。


「織姫、中学の時に上級生に目つけられてさ。髪切られたことがあるんだ。」


たつきの言葉が思い出される。

あの綺麗な髪。
柔らかで。
軽く揺れる。

温かな髪。


そんなこと、絶対に許せねぇ。



「井上〜〜〜〜!!!何やってんだ??もう少しで予鈴鳴るぞっっ。早く教室来いよ!!!」


俺はできるだけでかい声で。
下まで通るよう。
井上の名前を呼んだ。

その声は、
下まで届くくらいだから。
廊下にも響き渡り。

多分俺がこの学校へ来て。
女の名前をこんなに大きな声で呼んだのは、
初めてだ。


そして・・・・・・・。
井上を囲んでいた女子は。
俺を見上げて。


ばつが悪そうに、
井上の側を離れていった。


そして井上も。
返事などせず。
静かに俺を見上げていた・・・・・・。
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