幸せな日付(彗のB.D記念フリー小説)






11月22日は俺の生まれた日。



別に自分の誕生日が楽しみだった事も、嬉しいと思った記憶すらなかった。



そんな俺を変えたのは後にも先にもただひとり。



いつの間にか誕生日が楽しみになっていた。
それは彼女が、いつもそれは嬉しそうに『オメデトウ』と言うから。



その笑顔を見ただけで幸せな気分になってしまう。



11月22日は俺にとってそんな日でした。





もうすぐ俺と光は結婚する。



その記念すべき日は11月22日。



自分の誕生日と結婚記念日になる幸せな日。



これから先もずっと光が側にいてくれる事になる日。



幸せとはこういう事を言うのだろう。



幼い頃から愛してやまなかった女性。
生まれて初めて心から愛した人。
そして彼女いわく、永遠のライバルでもある人生の伴侶。



そんな素晴らしい関係を手に入れられる人間は、この世界に一体何人いるのだろうか。



俺はそんな幸せをかみしめていた。



数日前までは。










俺と光は卒業間近の大学の敷地内にいた。
俺が少し目を離した間に、光の姿を見失ってしまった。



どこに行ったんでしょうか。



探し回る事20分が経過した時・・・




「ここにいたのですか・・・」




やっと見つけました。



後姿だったけれど、すぐにわかった。



ここは光がお気に入りの、芝生と木々が溢れる緑豊かな場所。



生い茂る木々のせいで、光はこちらに気付かない。



声を掛けようとしたが、もうひとりいる事に気が付いた。



光・・・と男?




確か光が親しくしていた集団によくいた男だろう。



この期に及んであきらめが悪い男ですね。
大方、最後に光への熱い想いでも告げているのでしょう。



やはり抹殺しておくべきでしたか・・・。



光を害虫から一刻も早く引き離そうと、背後に近づいた俺の耳に飛び込んできたのは・・・思いもよらない怒声だった。




「光はあんな最悪な男でいいのか!?」




「どういう意味だ?いくらお前でも・・・滝島の事悪く言うのは許さないぞ!」




「仕事、仕事でろくに大学にも来てなかったし、結婚したって会えない日が続くよ。滝島は世界有数の財閥の跡継ぎなんだから!光は耐えられるのかよ!?」




「・・・そりゃぁ・・・本音を言うと・・・本当は寂しいぞ」




俺は立ちすくんだまま動けなかった。




「あいつは、光に一生寂しい想いをさせる!!選んだ事を後悔する日が来る!」




気が付けば



俺はひたすら走っていて



ふたりから遠ざかっていた。



光をあのふざけた男から守りたいのに・・・光の答えが怖くて聞けなかった。



何をやっているんでしょうか・・・俺は。







あれから時折不安になる。光は本当に俺でいいのか、と。
我ながら情けないのはわかっている。
もちろん俺は光以外考えられないし、光と結婚する相手は、俺でなければ考えられない事はわかりきっているのに。




でも光は?




きっと俺はしょっちゅう出張などで寂しい想いをさせてしまうだろう。




後悔していないだろうか。



俺を選んでしまった事を。









結婚式当日になっても心は晴れなかった。



息苦しい。



俺は結局、あの日の事を聞けずにいた。



もうすぐ式が始まるのに。



しっかりしなくては。




バタンッ




ふいに大きな音で開かれたドアの先には




美しい純白のウエディングドレスに身を包んだ光の姿。




「光・・・」




シンプルなデザインだが、とても彼女に似合っている。いつも美しい彼女だが、更に神々しいくらいの美しさで。そんな息を呑む美しさに思わずみとれた。




「彗」




それと・・・幼い頃からの仲間達に、桜とハ尋の姿。





「おめでとう」



「幸せになれよっ」




「ついに数十分後だね」




「彗クン!何ボーッとしてるのよ」




「クスクス 桜、野暮なこと言っちゃダメじゃないかvv光ちゃんの美しさにみとれてるんだよ」




「当たり前よ!!私の光なんだから、世界で1番可愛い花嫁さんなのよ」




『光ちゃん キレイ』




「光ちゃんは彗君に話があるみたいよ」




「俺らは先に行ってるからな!」




「おうっ」




「・・・彗!」




部屋を出る直前、明は俺のネクタイをつかんでささやいた。
俺にしか聞こえない小さな声で。




「幸せにしなきゃ許さないんだから・・・!!!」




「・・・」




「・・・あんたもなんなきゃ許さないわよ・・・っ」




「・・・聞こえません」




「何でもないわっ!」




バタンッ




ドアが閉じられて、ふたりきりになる。
ふたりきりなるのはいつもなら嬉しい筈なのに・・・今はひどく息苦しく感じる。




「お前に言いたい事があるんだ」




「何です」




聞くのが怖い・・・結婚を中止しようと言われるのかもしれないから。




「お前は・・・私が忙しくて会えないと好きじゃなくなるのか?」




「・・・は?」




「いいから。答えろ」




「まさか!そんなわけないでしょう。・・・どんな事があっても俺は光が好きなんですから」




「じゃあ信じろよ!!」




「え?」




「私を信じろ!!私はお前を選んだ。お前も私を選んだ。
お前は、この世でただひとりのライバルで・・・特別なんだ。
私だって、会えなくて寂しいくらいで気持ちは変わらないんだぞ」




何でわかってしまったんだろう。
最高にニブい光の事だから、気付いていないと思っていた。



お前なんか好きじゃない、といつか言われるんではないかという・・・どうしようもない不安感に。




「何故・・・そんな事を?」




「お前マリッジブルーなんだろ。
マリッジブルーというのは・・・結婚前の男が花嫁を信じられなくなってしまうような病気なんだろ?」




マリッジブルーって病気なんですか・・・?
大体マリッジブルーは花嫁の方がなる症状では・・・?



なんて思いが頭を掠めたが・・・確かにそうなのかもしれなかった。



俺は何を弱気になっていたのでしょうね。



光が好きすぎて



愛しすぎて



重すぎるこの想いが光の負担になってしまい、いつか離れていってしまうのではないかと



弱気になっていました。




「私はマリッジブルーっていう病気は知らなかったんだが・・・ハ尋がな、詳しく症状を教えてくれたんだ!」




八尋が・・・?




「そしたら『結婚を前にした花婿は、みんなマリッジブルーにかかってしまうからもしかしたら・・・彗君みたいな超人でもかかってしまっているかもしれないよ。でも光ちゃんの一言で・・・きっとあっと言う間に治るよ』
なんて言うもんだから・・・式を挙げる前に治さないといけないと思ってな。
それで慌てて飛んで来たんだ!!」




彼にはまた大きな貸しができてしまいましたね。
いつもなら、高い利子もつけて返す羽目に成りかねないハ尋の貸しなど・・・絶対作りたくありません。




でも




今日は素直に伝えたい。




ありがとう――と。




俺は世界で1番幸せ者なのでは・・・素晴らしい仲間・・・そして彼女に出会えたから。




「では俺は行きますね」




「そうか。先に行って待機してなきゃいけないんだよな」




「式場で先に待っています」




花嫁と花嫁の父が歩くバージンロードの先で、花嫁の手を取るのは新郎。



だから光より先に式場に行かなくてはならない。
純白のウエディングドレス姿の光と離れるのは名残惜しいが、すぐに会えるのだから、と思い直しドアに手をかけた。




「なあ」




「何です?」




「・・・愛してるぞ」




そんな嬉しい告白を聞けたのは



結婚式の始まる5分前。





fin
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(彗のB.D記念フリー小説)いかがでしたか??


彗のB.D11月22日を記念してのフリー小説です!!
お持ち帰り自由です。コピーしてお持ち帰り下さい。



彗目線の結婚式前の心境で書いてみました。
マリッジブルーな彗ちゃんはヘタレです。

ちなみにハ尋は、ここ数日彗が悩む姿を見て、浮かれていたのにおかしいな、と気付いて光にアドバイス?してくれたんですね。

素直に手助けせず、マリッジブルーだなんて・・・!
そんなハ尋のひねくれた優しさを感じ取って頂ければ
幸いです?笑



こんな小説でよろしければお持ち帰り下さいね!
持ち帰る時に、一言ご報告頂けると嬉しいです。


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