「…いーたん」

「……」

その先は言ってくれるな殺人鬼…
僕も自分で思ったから。
そんな僕の願いも虚しく崩れる。

「いーたんって、ドジだな」
なんもないとこでこけるなよ…
零崎はそう言って僕に手をさしのべた。

「……そうだね」

僕は、その手をとらせていただいた。
できれば、ドジだと、口にだして言って欲しくはなかった。

零崎の手を放し、服についた土をはらう。
零崎はそんな僕をあきれたように眺めている。
悔しい。
あいつに呆れられるなんて屈辱だ…。

そう思いながら動作を続けていると、手のひらに痛みを感じた。

「いた…」

こけたときにすりむいたのだろうか、じわりとうっすら血がにじみ出ている。

幸い服に血はついていないようだ。

「どうしたいーたん」

「すりむいたから、血がでてきた」

「消毒しに帰るか?」

零崎は心配してくれているのだろうか、珍しく優しいことを言ってくれる。

「大袈裟だよ」

「そうか?」

こんなのなめてれば治る。

そう言ってやると、あろうことか零崎は、僕の手をとりなめやがった。

「いっ」

幸いにも、零崎の舌
が傷にふれたとき、チリッとした痛みが生じたため、フリーズした思考が元にもどり、すぐさま零崎を殴り飛ばしたのだけど。
「なにすんだ、いーたん」

「……それはこっちの台詞だよ」

僕は無言で歩き始める。
零崎はそれに続きながら文句を言ってくる。

「いーたんかなめてればなおるって言ったんだろ」

「自分でなめるって意味だよ」

「誰がなめても一緒だろ?」

「………戯言だ」

事も無げにそう言う零崎に、そう言ってやる。

「傑作だろ?」

僕の隣で、かははと笑ってそう言いかえす零崎。

「……戯言だよ」

とりあえず、気恥ずかしくなったので零崎の一歩先を歩くことにした。

END



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