Fugato wind
□第一章
1ページ/5ページ
深い緑に包まれた天井から一転、強い日差しが空から降り注いだ。
急な明るさに眩む目を抑え、荷台に横たわっていた体をゆっくりと起こす。
段々光に慣れてきた目を開くと、木々の生い茂っていた森は遠ざかり、開けた林道に出ていた。
振り返れば、多くの建物が立ち並ぶ街が眼前に広がっている。
「もう着いたのか…」
「ああ…っておい寝てたのか。そんなんで仕事こなしてるつもりか」
手綱を引いている中年の男が呆れて言った。
仕事――というのはこの荷馬車の護衛だ。街道といえど、街の外には魔物が出没し、野盜の危険もある。
「ちょっと横になってただけさ」
言い訳がましい言い方だと思ったが、周囲への注意を切らしたつもりはない。
それに大抵は馬車の荷台で時間を過ごしているだけのこの仕事は、はっきり言って暇だ。
「…まぁ、お前には何かと世話になってるしな」
男もそれを分かっているのだろう、苦笑しながらもそれ以上言及はしなかった。
「しっかし、見る度にデカくなってんじゃないのかこの街」
見つめる先に広がる街――自由都市アルデ
王国によって試験的に認められた自治の街、それ故に街の実権は市長が握っている。
そしてその市長の意向により商業に重点を置いた結果、今では有数の商業都市へと発展している。
「全くだ、十年前じゃそこらじゅう原っぱだったってのにな」
「…そうなのか」
街に入ると一気に風景は変わり、道沿いには多くのテントが並び、大勢の商人が開店の準備をしている。
「このまま暫く市場を回るが、お前はどうする?」
「俺は寄る所があるから此処までで」
そう言い青年は荷台から飛び降りる。
「ほら、今回の分だ。また頼むぜエアード」
「毎度。今後もどうぞご贔屓に」
差し出された小包を受け取り、その青年――エアードは一礼し、馬車とは別の方向へ歩き出した。