駝鳥

□Atelier番外編〜その掌に包まれる物〜
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お洒落なカフェや雑貨屋

セレクトショップやオンリーショップの服屋に古着屋
ホットドックやクレープ等の露店


様々な店が並ぶ

所謂ファッションストリート


学生街と住宅街に挟まれるようにその通りはある


毎日、近隣にある大学の学生や

ファッションに敏感な若者
デートをするカップル

犬を散歩する近所の住民等
いろんな人が行き交う


そんな賑やかな通り…



頭に、耳に、こだまする

体に響く音の波

通りの一角にあるレコードショップの中

ヘッドホンから流れ込むリズムを

頭の中で

ミックスしたりクラッシュしたり

ミクスチャーの為のイメージトレーニング…


音に酔うこの瞬間が

環は最高に好きだ

16インチの盤の中に詰め込まれた世界を

頭の中で回している時が

1番リラックス出来る時なのだ

処狭しと飾られたレコード以外には殆ど何もない小さな店内に

視聴スペースとは名ばかりの一人掛けのソファー

無造作に詰まれた木箱の上に載るプレイヤー

レジ横でコーヒー片手に店長もレゲエに酔っている

常連さんばかりのこの店ではよくある光景

環も新しいのが入ったと聞く度に買いにきてしまっては寛いでいたりする

店の入口ではラグマットと見間違うようなクタクタの茶色い老犬が

べたりと寝そべっていて

時間の流れがゆったり流れるそんな場所で

ガラス越しに外を通る緩やかな人の波を見るともなく眺めていると…

さっと通りすぎた人波の中に何かひっかかるものがあった

……?

環はもう一度きちんと見る

すると…


向かいにあるアクセサリーショップの前

ショーウィンドウを覗き込む猫背が一匹

いや、一人

クシャと頭をかいて何かを見ている

―スィ、と目線を逸らし

隣の店をチラチラと覗くが
また―スススッと戻ってきて

ちらりとそこに飾られた何かを眺める


「……。」


環は

その姿勢の悪い後ろ姿に近づいた…


「何見てんだ?」


突然掛けられた声に


「?…お前か。」


キョトンとした顔で振り返ったツトム

いつも感情の起伏が解りにくいが余程集中して見ていたのか不意を突かれたような気の抜けた表情に


やべー、可愛いー。


環は尻尾を心の中で振る

ちょっとした瞬間こういう事を考えてしまう自分に環は最近、開き直っていた


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