孔雀

□Atelier
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あの頃の全てが

間違ってたなんて思っていない

馬鹿ばかりしていたが

ちゃんと真正面から人と向き合う事を教えられたのも
本気で叱って手を差し延べてくれたのも

誰かを本当に思うという事を知ったのも

あの頃だった

そうしてくれたのが

あいつだった

少しだけのすれ違い

そして

不器用なくせに求めた貪欲な思い

ただ素直に好きだと伝えていれば

あんな思いをしなくても

させなくてもよかったのかもしれない

臆病な自分の行動が

どれだけ相手を傷つけるか解らなかった訳じゃない

だけど

あの頃の自分はあまりに子供で

どうすればいいのか

どうしたら手に入るのか


そればかり考えていた…


例えそれが大切な人の片方を無くす事になると解っていて


そして結局、両方失った


3年前の後悔を


飛鳥はずっと、ずっと考えてきた




「…あいつ、婚約したんだ。」



ツトムの腰に回したままの腕をギュッと、強めて

飛鳥は溜め息に混ぜるように

そう言った

鳩尾からはい上がってきそうになる震えをなんとか堪えて吐き出した言葉は

二人だけのリビングに静かに落ちた

どうしても、顔を見て言えなかった

あの時から三年経っているとはいえ

もしも、

ほんのカケラでも

傷ついた顔を

哀しい瞳をされたら


どうしていいのか解らないだろうから…


あの時、

恋人どうしだった2人を別れさせたのは

3人の関係を最初に壊したのは


他の誰でもない


飛鳥自身だったからだ…



「……。」



ツトムは黙ったまま

飛鳥の長い指に

自分の手をそっと重ねた

ぴくり、と

飛鳥の肩が揺れる


たった1分程の沈黙が広いリビングを漂う空気をまるで支配しているかのように飛鳥は感じた


時計の秒針が刻む音に

心音がシンクロするように頭に響く

やがて、ほんの少しの間を置いてツトムは小さく溜め息をつくと触れたままの指先に力を込めながら

そっと、口を開いた


「…俺は大丈夫だ。」


元々対極の世界にいた二人
けれど、結ばれなかったのは二人の意思

もう、あの時の事は忘れていいんだと

ツトムは広い手を握りしめ

「…だから、お前も……そろそろ自分を許してやれよ。」


ぽつり、ツトムはただそう言って

飛鳥をゆっくりと振り返った


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