河村と不二・パラレル

□世界でただ一人だけ。
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世界でただ一人だけ。




「それじゃあ、お先に失礼します」
 いつもより早めにオフィスをあとにして、滑るように飛び出した11月のオフィス街はすっかりクリスマスの装いだ。ショー・ウィンドウは赤と緑で飾り立てられ、金や銀の『Merry X'mas』の文字が雪の結晶とともにあたりに散りばめられている。レストランの店先でにっこり笑っているスノー・マンを揺らした北風の冷たさに、思わず立てたコートの襟を立てた。

――― そんなに早くから立ってるからだよ。

 ふよふよと揺れたスノーマンに心の中でそう告げながら、先週買ったばかりのマフラーを口元まで引き上げた。
 カレンダーの一番上に【12】が来るまで、クリスマスは認めない。
 それは不二が勝手に決めたルールだ。
 やっと定番化してきたハロウィンが終わるよりも早く、街中はクリスマスカラーで埋め尽くされる。赤いリボン、緑のテープ、雪の結晶、金色のベル。似たりよったりのショー・ウィンドウがすっかり見慣れた頃になるとクリスマスツリーが待っていましたと言わんばかりにディスプレイのセンターに姿を現す。
 そうなると、街中はすっかりクリスマスだ。

――― でも、ボクは認めない。

 どうして?と聞いてくる人たち―――たとえば、同じフロアの女子社員とかイベント好きの同僚とか、付き合いで言った飲み会で前に座った女の子とか―――には、にっこり笑って首をかしげてみせる。別にいいじゃない、と突っ込んでくる人には、首をさらに反対にかしげてみせる。
 答えなければわからない人に、答えてあげるつもりなんてない。
 ただ、不二は認めない。絶対に。
 クリスマスの前の特別な日を過ごすまでは、クリスマスなんか認めない。

 
 
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