テニプリクエスト 第2部
□第9章 迷いの森
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テニプリクエスト
第9章 迷いの森
ムオルの村を出発してから北の山を越えるまで、拍子抜けするほど穏やかな旅が続いていた。相変わらず寒さは厳しいが、不思議なもので海から離れるにつれて厳しい風は感じなくなり、山も反対側へ抜けてしまえば、吹雪が嘘のようにぴたりとやんで乾いた風が吹くばかり。
幸か不幸か、強敵に悩まされることなく山を越え森のそばまで馬車は進んだ。ここまで一度も、テヅカが剣を抜くところは見ずに。
短い旅の間中、テヅカは、馬車の奥に静かに座っていた。あまり口を開くことがないが、オオイシもエージも気にした様子がないところを見ると、元来口数の少ない人なのだろう。そんなテヅカの様子を、モモシロが「なんかありがたい守り神の置物みたい」と言っていた。
山道を抜けると、なだらかな平地が続いていた。木々も少なく、ぽかぽかと冬の陽気が差し込んでいる。
「お日様って暖かいんだねぇ・・・・・・」
久方ぶりに馬車から顔を出したエージがしみじみと呟いている。分厚いコートやもこもこの手袋とも、そろそろお別れかもしれない。
「このまま世界樹までのんびり・・・・・・って訳には行かないかなぁ」
そう言って、遙か前方を眺めて目を細める。
山道を抜けてからずっと、薄ぼんやりと巨大な木の影が見えていた。まるで天まで伸びているかのような太くて大きな幹、うっそうと茂った枝葉。その足下には、暗く広い森が広がっている。
「まぁ、無理っすね」
同じく前方を眺めながら、モモシロが大きく首を振った。
「さっすが『迷いの森』っつーだけありますよね。っていうか、俺もよく分かってないんすけど、エルフの呪いって何なんすか?」
「んー、ゲンミツには呪いとはちょっと違うんだよねん」
久しぶりの魔術師本領発揮。エージが説明を始める。
「そもそもエルフってのがさ、いわゆる亜人ってゆーの、人っぽい妖精って感じの種族なんだよね。見た目は人間ソックリなんだけど、すっごく寿命が長くて、自然界の精霊と話が出来るって言われてるんだ」
「精霊?」
「そ。火の精霊、風の精霊、水の精霊、みたいな?
俺たち魔術師は魔術の力で火をおこしたり氷をとばしたりするけど、エルフは精霊の力を借りて火を出したり風を起こしたりするんだよね。
だから、『エルフの呪い』っていう場合には、大体は精霊の力が働いてると思えばダイジョーブ。
森の呪いだと、木の精霊や森の精霊に進入者を追い出してもらうってカンジかなぁ。
でも、それだとちょっと力のある魔術師なんかだとあっと言う間に倒されちゃったりするからなぁ・・・・・・今までだれも出てきたことがない、となると、もっとすごいのかもしんないね」
「へぇ。エージさんって実は物知りだったんスね」
「しつれーな!オレだって魔術師のはしくれなんだぞーっ」
エージがぷうっと膨れてモモシロをぽかぽか叩く。
「まぁまぁ、何がくるにせよ、重々用心してかからないといけないだろうね」
手綱を握っているオオイシが振り返る。
「このペースで行けば、あと少しで森の入り口にたどり着く。少し早いけど、今日はそこでキャンプを張って対策を立てながら・・・・・・」
オオイシがいいかけたとき、突然、冷たい風が吹き付けた。
風なんて生やさしいものじゃない。突風だ。