SS〜Junk〜

□泡沫の夢の間に
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眠りにつく 一瞬。


「俺の事、好き?」
眠りにつく瞬間。
天国は俺にいつもそう聴く。
眠気と戦いながら、殆ど発音できていない台詞。
いつも固く握りしめられた掌は遠慮がちに俺の服の裾を掴んだまま。
もう決して小さくはない手は、簡単に振払える。
少し、力を込めれば簡単に。
俺はいつも困ったかのように笑う。
天国の目はもう閉じられている。
別に答えを望んではいないのだ、天国は。
それは…互いにとって酷な事だと解ってる。
一定の距離を保つ事が、俺達のギリギリの。
少しでも、近付けば呆気無く壊れる関係。
ただ一言。
伝えられれば、どんなにか楽だろう。
沈黙と暗闇の中。
俺は未だ苦笑を続けていた事に気付く。

薄い皮膚を通し、体温がじんわりと沁みる。
もうすでに力の抜けてしまった手をそっと掴み布団の中に入れ、自分も入る。
半身から伝わる、心地良い温もり。
これが二人の精いっぱいの距離。
「…本気で辛いんだけどなァ…」
眠りにつこうと目を閉じてもなかなか苦笑は収まらなかった。
傍の温もりが、嬉しくもあり…複雑に感じる夜だった。

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