SS〜Junk〜

□交差の行方
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分かっていた。
分かっていた筈で。

泣く事も、
罵る事も。
何もできずに。

分かっていた筈なのに、と
ただ。


血腥い所か、嗅覚は麻痺して。
似通った、頭のない死体達。
クローンとしか言い様のない程、
似通った。

記憶に残る奴の顔を思い出す。

『やーまだッ!』

独自のイントネーションで自分を呼ぶ声。
へらへらとして、いつも笑いを浮かべている。

「…何で奴の事なんて考えてる、…俺は。」

何処か現実離れした、同じ遺伝子を持つ死体達。
遺体置き場にまた、ずらりと並べられ。

「…珍しい。」
ぼそりと同僚が呟いた台詞にふと我に返る。
「見てくれ、山田。いつもは所持品なんてないのに…」
赤い。
確か初めの色はグレーだった。
ただ、赤に濡れて。
「イニシャル…はYか。」
見覚えのある、その。

「…どの死体からだ…?」

「さぁ。同じ死体だらけだからな。これだってその服の山から見つかったんだ。」

ああ。
分かっていた筈だった。
いつか。
そう遠くない時に。

それでも。

それだけは起こらないような気が、していた。

「…そうか。」

俺は部屋を出た。
酷く、気分が悪い。

ただ人気のない休憩室まで足を引き摺って
倒れ込むように、ベンチに座る。
テレビではさっきの事件の事を、ニュースキャスターが読み上げていた。
「…えらく気落ちしてるじゃ〜ん。やーまだッ。」
重い首をあげると奴がいた。
いや。
「今日は掃除夫になって潜入してみたり。」
へらへらと、笑みを浮かべる顔も。
全てに置いて、同じで。
「…何しにきた。」
「いや〜実は親切な刑事さんにもらったハンカチを俺とした事が忘れちゃってね。」
もしかしたら。
もしかしたら、と。
「…お前は…誰だ。」
「…俺は、俺に決まってるじゃん。」
うっすらと何故か、笑みを浮かべている自分に気付く。
違う、と。
確かに全てに置いて。
例えば奴と記憶が同じだとしても。
「お前は、…違うよ。」
あの時を過ごした奴ではないと。
「アレは…こちらで処分する。」
自分の声すら遠くに聞こえる。
「…やーまだ。」
必死に。
声を聞くまいと。

どこか甘い考えに走る自分がいる。

「…お引き取り、願おうか。逮捕されたくなければ、ね。」
驚いた顔も。
そうやって、寂しそうに笑う所も。
何もかも。

「…俺は、俺だからさ…」

ただ目を閉じて。
足音が遠ざかり、消えるのを待つ。

何故、自分はこんなにも狼狽えているのだろう。
何故、自分はこんなにも傷付いているのだろう。


その答えは多分、この先。
二度と得る事はないのだろうと。

足音が遠ざかり、消えた時。
なんとなく、そう思った。

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