SS〜攻殻〜

□マテバ(SSS)
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静寂が。
静寂という音のない音が。

酷くカラカラになった喉を、
殆ど反射的にごくりと飲み込む。

左手に感じる、暖かい娘の手。
最後にせめてぎゅっと握りたい。
そう思ったが、指先の1つも動かせなかった。

最近は久しく握っていなかった
それでも手に良くなじんだマテバを握る。

義体化してからは一度も握っていなかった。
ひんやりとした銃身を感じつつ、
長年一緒にいた自分の分身に
心の中で小さく詫びた。

自分の口から出る呼気が、
思いの他、細く小さく流れた。

ゆっくりと目を閉じる。

笑った妻の顔が。
笑った子供たちの顔が。

撃鉄を起こす手は戸惑わなかった。

きっと彼女たちは泣いてくれるだろう。

かちりとチタン製の頭蓋に音が響く。

ふと、あの両目が義眼の男を思い出した。
隊長を引き継いでからは、ろくに話していなかった。

マテバの銃身が僅かにぶれる。

彼は泣いてくれるのだろうか。

出来れば、家族よりも長く過ごした男に
自分が死んだ後、
マテバを持っていてほしいと思った。


ああ…そうだ。

彼に一度も告げていない、
告げてはいけない言葉があったんだ…


「     。」


遠くで懐かしい声が聞こえた気がした。



指先はもう、戸惑わなかった。

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