SS〜攻殻〜

□マテバ(GIG)
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人のざわめきが。
酷く遠くに感じる。

青いコートの下のマテバを強く握り締める。
感覚すら遠く感じた。

手に感じる冷たい銃身。
強張ったまま。
僅かに震える手が、怖かった。

いつだって、どんな時だって共に切り抜けてきたただ1つの武器。
その信念の塊とも言える、その武器。

心の拠り所を失ってしまった。
永遠とも、一瞬とも覚えていない。
縋るように、
手に馴染んでいる筈の分身を握り締めている。

自分の口から出る呼気が、
思いの他、細く小さく流れた。

ゆっくりと目を閉じる。

当たり前のようにあった日々。
当たり前のように過ぎ去った日々。

これは復讐なのだろうか。

身勝手な、愚かな復讐劇なのだろうか。

かちり、と撃鉄を起こす音が響く。

ふと、あの両目が義眼の男を思い出した。
ああ、最後に交わした言葉はなんだっけ。

マテバの銃身が僅かにぶれる。

この喜劇とも復讐劇とも言えないこの、滑稽な、劇を見たのならば

愚かだと罵るのか。
哀れだと悲しむのか。
ただどうか、泣かないでほしいと思った。

ああ…そうだ。

どうせならば、
この愚かな道化師の最後を見て…


「馬鹿な野郎だ。」


そういって笑ってくれればいい。



何処か遠くで銃声の音が聞こえた。

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