SS〜攻殻〜

□タチの悪い冗談(GIG)
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いつも傍にあったチョコレートブラウンの綺麗な瞳。
強い意志を浮かべ、唯一つの理想を見つめる。
その硝子の様な、己を写す綺麗な瞳。
時に強く。
時に優しく。
それでいて、時に脆い。



ざわざわと騒がしい群衆の中。
そっと気配を消し、久しぶりに視界に映るトグサの背後に近づく。
群集は気づかない。

そして青いコートの背を掴み、制止する。
大げさな位肩が震えたトグサに驚きつつ、軽口を飛ばす。
そしてゆっくりと振りかえったトグサの眼を見て驚いた。
いつもはまっすぐ前を向き、
理想を求め、強い意志を浮かべた眼が。
まるで泣き出しそうなほど、
弱く震える光を浮かべていた。
「…ぁ。」
(―まるで迷子の子供だ。)
トグサは俺を見た後小さく呟いて、虚ろな眼で俺を見る。
まるで銃を持ったことがないみたいに
がちがちに固まったまま、呆然と銃を握っている。
そっとその手を握ってやり、
胸元に戻してやる。
握りすぎで白くなった指先は冷たかった。
「トグサ…行こう。」
かけるべき言葉が見つからず、俺はそっとトグサの腕を引く。
未だ呆然としながら、車の助手席に押し込む。
俺が運転席に移動する間もじっと固まった自分の手を見ている。
「…トグサ。」
少しでも触れれば、消えてしまいそうで俺はただ名前を呼ぶ。
恐る恐る頭に手を伸ばすと、
泣き出しそうな眼がじっとこちらを見つめ返す。
「…トグサ。」
もう一度名を呼ぶと、
ゆっくりと瞼が降りた。
頭に触れる温もりを確かめるように、
強張ったままの手がそっと俺の手と重ねられる。
「…バ、トー…」
閉じられたままの眼は隠れたまま。
不安げに途切れ途切れに言葉を紡ぐ。
「…こわ、かった…怖かったんだ…」
ぽたぽたと、1つ2つと涙がこぼれ出す。
閉じられたままの所為でその眼は見えない。
この3ヶ月、お前は1人でそんなに思いつめていたのか。
全てを取り上げられ、家族にも言えず一人抱え込んで。
「すまなかった…」
未だ零れ落ちる涙をそっと拭ってやる。
この空白の。
長いとも短いともいえた3ヶ月。
その数ヶ月は、こんなにもお前を変えてしまったのだろうか。
あの強かったはずの優しい眼を、
揺れ動かすほどに。
頬にそっと触れると、また大げさな位身体が震えた。
そっと引き寄せると怯えたようにこちらを見る眼。

ああ、こんなにも。



いつも傍にあったチョコレートブラウンの綺麗な瞳。
強い意志を浮かべ、唯一つの理想を見つめる。
その硝子の様な、己を写す綺麗な瞳。
時に強く。
時に優しく。
時に脆い。

だがきっとそれは熱を帯び、また叩かれて。

しなやかさを帯びたそれは、
更に強さを、
更に優しさを、

増してきっと輝くのだろう。

それでも今だけは。



未だ己の胸の内、小さく震える身体を黙って抱き寄せ続けた。

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