SS〜Orphen〜

□写真
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トトカンタ市内の某部屋にてキースは椅子に座りじっと手元を見ている。
その手元には1枚の写真―黒いローブをまとった人物が3人、写っている。
中央のいかにも素直そうな少年がはにかむような笑顔で写っている。―があった。
ふむ、と小さく呟きそれをテーブルの上に置き立ち上がる。
かちかちと時計の音が響いている。
しばらくしてドアを開く音。
あとに残るのは静寂のみだった。





「と、言うわけで写真撮りましょ。」

日中のうららかな昼下がり。
にこにこと嬉しそうにカメラ片手にスーツを着た女―コギーが
テーブルにバンッと音を発てて開いている方の手をついた。
その正面にぐったりとうつ伏せに顔だけを乗せて手はだらしなく机の下に
伸ばされた黒髪、黒目の男―オーフェンが面倒くさいと言わんばかりに呻いた。

「…何がどういうわけなのかは知らんが、俺は付き合わんぞ。」

そしてまた目を閉じる。

「えーいいじゃない!思い出って大事よ。それにほら、死んだら遺影にも使えるし!」
「…どさくさに紛れて縁起でもない事いうな!」

がばっ、と勢いよく身を起こした瞬間ぱしゃりと―どう考えてもカメラの音だ―響く。
目の前にカメラを構えたコギーがいる。

「………肖像権で訴えるぞ。」

半眼で睨みを効かし、呟く。
が、またカメラを切る音。
面倒くさくなり、机に今度は下を向いて―鼻が当たって痛い―うつ伏せになる。

「ちょっと!それじゃあ撮れないじゃない!!」
「俺は撮るなッ!と言ってるだろうが、この無能警官!!!!!」

うつ伏せのまま、叫んだので僅かにくぐもった声なのは仕方がない。

「…………………桃缶3個。」

オーフェンの肩がビクリと動く。

「………………………桃缶5個。どうする?」

オーフェンはため息をついた。







「って全部、藪にらみでおんなじ顔じゃないの!!!!これなんて明らか怒ってるじゃない!!!」

結局ほぼ夕方までつき合わされ、途中からはコギーやらキース、果てはマジクに地人兄弟まで
合流し街中を暴れ、いや撮影した話は置いておく。
昼間と同じような格好で座り込む机には大量の写真が山のように積まれている。

「…しゃあねえだろ、俺はこ・う・い・う・顔なんだ!」

写真を両手に掴み詰め寄ってきたコギーの頬をやや強くひっぱる。

「ちょ、いひゃい!いひゃいじゃないのぉおおお!!!!」

頬を押さえてしゃがみ込んだコギーは無視する事にして
テーブルの写真に向き直って席に戻る。

「で、この大量の写真は一体どうするんだ。」

コギーは涙目で引っ張られた頬を両手で擦りながら、立ち上がる。

「…そうねえ、アルバムか何かにまとめて―」
「そう言われると思いましてこちらに。」

さっと眼前に差し出されたのは一冊の白いアルバム。
ちゃっかりとペンまで添えてあった。

「…………もうどこから突っ込んでいいかわからんが、いつ入ってきた。」
「はっはっは、黒魔術士殿。
そこの入り口から入ってきたに決まっているじゃありませんか。」

ぐったりとテーブルに項垂れたくなったが、写真があったので諦めた。

「っておい!コギー!人の顔に何書いてやがる!!!!!」

ガッとテーブルの上で何やら写真の上でごそごそしているので
無理やり引っ張って手元に寄せる。
そこには地人兄弟を踏みつける自分とそれを後ろで指差すコギーの姿。
そして自分の鼻の下には

「えーっと………………ひげ?」

首を傾げながらいうコギーに魔法の1つでもぶっ放そうと思ったのだが
桃缶が明日貰えなくなっても困るので必死に抑えた。
ふっふっふっふと、どこか低い笑いがこみ上げる。

「そうかそうか、ひげか。お前がそういうつもりならなあ!!!!!!!!」
「いやあああああああ!肉は駄目ぇえええ――!!!」
「何ぃいい!ちょんまげだと!!!いつの間にそんな高等技術をッ!無能なくせに!!!」
「ちょっとぉおお!そんな中国スタイルはやめてええ!!!」

あらかた叫んだら息が切れて2人で机に
―写真はあちこちに落ちたので空いたのだ―うつ伏せた。
ふと離れたテーブルを見るとキースが黙々と何か書いている。
ちらりと覗きこむ。

「………………………………。」

それは街の人にとって貰った最後の1枚で全員が写った写真だった。
―コギーが土下座して頼み込んだので仕方なく写ったのだ。

見事なゴシック体に色とりどりの文字。
白い花多分ユリだろう、を模した見事なイラスト
蔓が上部に向かいフレームを沿うように伸び、天使を左右に従えた白地
の旗のようなもの―わざわざ文字の為にあけたのだろう。―
に絡まっている
そこにはまるで印刷したかのように『仲間達よ、永遠に』と書かれていた。

「…………………いや、案外普通で驚いたから言葉がでんくなった。」

まあひげやら、肉やらよりはずっとまともだろう。
まさかキースがこんなまともなものを書くとは思わなかったので
なんだかアホらしくなってがっくりと肩を落とす。

「いやあ、こんな事もあろうかとウェブデザイナーの資格を取っておいてよかったです。」
「そんな清清しい顔して言われてもっていうか関係ないだろそれ。」

相変わらず良くわからないキースに無駄だとは思うが突っ込みつつ。
写真はまだ半分以上書かれていないので、まだまだある。
(…どうせならボニーやら地人共にも手伝わせるか。)
ふと、思った。

「……まあ、楽しそうでよかったですな。」

キースの思いの外、優しげな音の声が聞こえた。
コギーは未だ必死に机に齧りつき、頑張っている。
思わず笑みが漏れた。
そして振り返る。

「…お前も手伝えよ、上手いん――――」

ぱしゃり。
思わず、キースの手元を見ると散々今日見た覚えのあるものが…。

「………今撮ったよな?」

じりじりと近寄るとキースもまたじりじりと後退する。

「はて。なんの事やら。」

無表情に呟く顔には僅かに汗が流れている。

「大丈夫よーぉ、もうフィルム入ってないから。」

コギーの言葉に一瞬警戒を解きかけるが………
念には念を入れて確認しておきたかった。

が、その一瞬の隙に

「はーっはっはっは!!!!!甘いですぞ、黒魔術士殿おおぉぉぉぉ。」

ガシャーンと窓の割れる音。
高らかな笑いを残してカメラもといキースは去っていった。

「………………………………。」

酷く焦燥感を覚え、先ほどまでキースの座っていた椅子―そこが一番手近だったからだ。
に腰を下ろす。

「そういや、お前のカメラ持ってってちまったがいいのか?」
「え、あれキースが持ってきたのよ?今日ここに来る前に。」

きょとんとするコギー。
思わず何かをいいかけようと口が開くが

「………………………………はぁ。」

ため息をついて、机に頭を乗せる。
そのままそこに置かれたままになっている写真に目が行き………
まあ、いいかと眼を閉じた。






トトカンタ内の某部屋。
そこはどこなのかも知らないが、窓際には2枚の写真が
―黒いローブをまとった人物が3人、写っている。
中央のいかにも素直そうな少年がはにかむような笑顔で写っているものと
―多少眼は釣りあがってはいるものの同じようにはにかんだように笑う青年の写真が……
あるとかないとか。

真実はキースにしかわからない。

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