月の民の唄

□秘めたるはどこから昇る
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「リカルド王!」

乱暴に開けられた扉が抗議をあげるように軋む。そんなことにはお構いなしに、アークは執務室へずんずんと入っていく。

「君がそんなに慌てているところなんて、初めて見たな」

外へ向けられていた目線がアークへと移る。言葉とは裏腹に、その瞳は真剣そのものだ。

「この場合は慌てない方が問題あるか」
「ちょ、アーク……走るの速すぎ」
「王!!」

アークが先ほど開け放った扉から息を切らせた紗夜が、別の扉からはフェイトがほぼ同時に部屋へと入ってくる。

「あれ? フェイトと王様だ。何? どうかしたの??」

すっかり何時もの調子を取り戻した紗夜は、リカルドに対する敬語も完全に無くなっている。

「月が出たんだ」
「は? 夜に月が出るのは当然じゃないの?」
「ヴァルハラではな」

アークの真剣な顔を見て、紗夜は更に首を傾げる。月は夜になれば空にあるものだ。それが自分の常識なのだが。

「さっきの説明では詳しく言わなかったが、ヴァルハラはな、聖獣の守護と精霊の加護と特殊な一族の力で支えられている。この国の王家ワーグナー一族も特殊な一族の一つだ」
「ワーグナー一族は太陽の力を司る『太陽の民』なんだよ」

フェイトがクリスタニアの国旗の輝く太陽の紋章を指差す。

「同じように月を司る『月の民』と呼ばれる一族が存在した」

リカルドはもう一度窓の外の月を見上げ目を細めた。

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