月の民の唄
□古の月が廻る頃
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星すらも見えない闇夜。
至る所から煙の上がる周囲には、ものの焼ける臭いが辺りに充満している。
焼け焦げた草原には、何かを引きずるような音だけが響く。
「―負けはしない。こんなことで」
四肢の感覚は既に麻痺していて、あれほど受けた傷の痛みすら感じない。ただ、胸を貫く思いだけが、強烈に身体を支配していた。
「諦める、わけには……いかない」
自分しかいないのだ。
この世界を救うのは。
他の誰でもない。
自分しかできないのだ。
「その、ためにも……、終わるわけには……」
意志に反して身体は動かなっていき、視界が端から闇に染まっていく。
薄れゆく意識の中で最後に見たのは、天を貫く仄白い光だった。