月の民の唄

□古が廻る頃
1ページ/1ページ

星すらも見えない闇夜。

至る所から煙の上がる周囲には、ものの焼ける臭いが辺りに充満している。
焼け焦げた草原には、何かを引きずるような音だけが響く。

「―負けはしない。こんなことで」

四肢の感覚は既に麻痺していて、あれほど受けた傷の痛みすら感じない。ただ、胸を貫く思いだけが、強烈に身体を支配していた。

「諦める、わけには……いかない」

自分しかいないのだ。

この世界を救うのは。

他の誰でもない。

自分しかできないのだ。

「その、ためにも……、終わるわけには……」

意志に反して身体は動かなっていき、視界が端から闇に染まっていく。



薄れゆく意識の中で最後に見たのは、天を貫く仄白い光だった。


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ