月の民の唄
□水清ければ月宿る
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清らかな水を湛えた湖の傍で、一人の少女が大量のモンスターに囲まれていた。
「ありえないっつーの」
ここ最近の短い間に、何度呟いたか分からない言葉がため息と共に溢れる。
目の前にはに狼の様な生き物の群れ、背後には光を反射して美しく輝く湖。だが今ばかりは綺麗だなどと思う暇もない。
短めの黒髪を風が撫でる。
一歩引いた靴の踵が、小石を弾いて湖に落とした。
肩越しに、もう逃げ道がないことを確認する。悔しそうに眉間を歪めたあと、何を思ったかその場にいない人物の文句を口にし始める。
「馬鹿レオ〜!」
「誰がバカか!」
聞き慣れた声と、耳にしたこともないような爆音が少女に届く。
空から降ってきた紗夜が、モンスター目掛け銃を放ち、見事に少女の目の前に着地した。
不慣れな銃で狙いをまだ定めきれていないのか、あるいは狙ってはずしたのか、銃による爆煙で敵の目を眩ませることに成功した。
「レオ!?」
「紫乃、今のちょっと格好良くなかった?」
「…そのセリフさえなければね」
「………ぶ、無事だった、紫乃?」
「遅っ!」
久しぶりの再会も、この二人では感動の対面とはならないようだった。
それでも、お互いのいつもどおりの様子に随分安堵していた。
「悠長に立ち話なんかしてんじゃねぇよ」
紗夜を追うように降りてきた黒耀が巨大な剣を横に凪払っただけで、見る見るうちにモンスターが倒れていく。
「紫乃ちゃん、大丈夫?」
「歩未ちゃんもいたんだ。ってか随分変わった馬に乗ってるね」
空からシェアトに乗って降りてきた歩未に驚きながらも、しっかりと突っ込みをいれる。
こちらも、変わらない様子にほっと笑顔がこぼれた。
続いて歩未の隣に、アークとフェイトが自分達の聖獣に乗って降りてきた。
「良かった。探していた友達も無事みたいだね」
「こいつらは頼んだぞ、フェイト」
「気をつけてね、アーク」
無事を確認すると、アークは聖獣を操ってモンスターの群れに突っ込んで行く。