月の民の唄
□月は雲に阻まれ地を見失う
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例えばそう。
太陽が雲に阻まれて、大地を見失うように。
怪我を負った紫乃の治療の為に城へ戻ってから、数日が経っていた。
その間、紫乃に付き添っていた紗夜だったが、歩未に休むよう言われ半ば強引に部屋を追い出されてしまった。
しかし、宛がわれた部屋に戻っても休む気にはなれなかった。
することもなかったので、城下へと足を向けたのだが、行く宛も特になく、ただ時間だけが過ぎていく。
「外に出れば少しはと思ったけど……」
空は厚い雲に覆われ、冷たい雫を落としている。気分を晴らす所か、余計に重くなっていく気がする。
雨に打たれながら、紗夜は唇を噛み締めた。
なにも出来なかった。
紫乃をクリスタニアへ移送しているときも、城で処置を受けているときも……。
紫乃がディアボラの刃をその身に受けたときも。
自分はそこにいたのだ。他の誰でもなく自分が。
それなのに。
俯いた紗夜の青い髪からは、止めどなく滴が落ちて、消えていく。