月の民の唄
□水面に映る太陽の翼
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ひどく重い瞼を開けると、そこは見知らぬ天井だった。
何度か瞼を上下させてると、徐々に頭もはっきりとしてきた。
それと共に、意識を失う前の記憶が蘇って来る。
煌めいた銀色。
視界を染めた赤。
その向こうに見える紫。
腹部に熱が集まり、手足が冷えていく感覚。
「そうだ! アタシは……」
慌てて身体を起すと、腹部に痛みが走る。
「っ……」
思わず息をつめてやり過ごす。暫くそうしている間に痛みの波が引いていく。
ゆっくりと顔を上げて見ると、見知った頭が布団に顔を埋めていた。
「ひっか……?」
自分の腕を枕に規則正しい寝息を立てている。さらに視線を廻らせれば、ソファーに丸くなって眠る七緒の姿。
「完璧に猫じゃん」
思わず笑みをごぼしてから、ふと二人足りない事に気づいた。
ソファーに備え付けられているテーブルには、カップが四つ乗っているのに。
ふと、暗くなる意識の中で、必死に自分を呼ぶ声を思い出した。
二つの声の主は、ちょうどいない人物と重なっている。
「…………」
何となく思い当たることがあり、紫乃はベッドから降りた。
掛けてあった自分の服に着替えると、寝ている二人に毛布を掛けてからそっと部屋を後にした。