月の民の唄

□闇面のその下は
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イーブルニア皇国、皇都。
その中央にそびえる城は、この国の皇主である闇の民の住居。黒を基調とした外観を持ち、どこか力強さを覗わせる。

その城の最奥に住まうようになってどのくらい経ったか。
ついに抵抗を示すものはいなくなった。元々が求心力のある人柄であったことも幸いしたのかもしれない。

「長かった。これでようやく」

仮面の下に隠された瞳が、口元が弧を描く。
これから行う最後の仕上げを済ませれば、この国は自分のものだ。ようやく己も外へ出れる。
部下たちが動いてはいるが、『鍵』だけは自分の手で手に入れたいではないか。そのための『駒』も手の内にあることだし。

最奥にある自室から、さらに地下へと下る階段を通ることもこれでなくなる。最後の段を降りれば、簡素な造りの扉が出迎えてくれる。
自然と高鳴る鼓動を聞きながら、無造作にその扉を開け放つ。

室内は、最低限の家具しか置かれておらず、出入り口は一つしかない。その扉を開けるのは自分しかいないので、室内の空気はどこか淀んでいる。

「ご気分はいかがですか? 『父上』」

声を向けた先で、燭台に点された灯りが、異様な影を壁に映し出している。
壁に固定されたその姿は、生気も覇気も感じられない。
初老に際かかったこの人物こそが、賢帝と呼ばれこの国を支えていたその人。
豊かさの象徴であったその面差しは見る影もなく痩せこけ、長期にわたってこの空間に監禁させていたことがわかる。

「ニ……ア……」
「おや? まだ話せたのですか……」

かすれた声で名を呼ぶ『父』に、薄く笑みを浮かべる。 

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