月の民の唄
□笑顔の下に月は行く
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鏡に映る自分の姿と対面できるようになったのはいつからだったろう。
幼い頃は疑問に思わなかった『違い』を認識したのはいつだっただろう。
瞬きを数回繰り返すと、髪を整えていた櫛を仕舞う。
「よし。ばっちり!」
両手で頬を叩いて気合を入れ、目一杯の笑顔で鏡の中の自分に笑いかける。はたから見たら変な子だろうが、今は一人しかいないので特に気にしない。
サイドボードに無造作に置いていた黒の半自動拳銃を手に取り、ホルダーに収める。
忘れ物が無いかをもう一度確認すると、勢いよく部屋を飛び出した。
勢いのままにマントをなびかせて、早足で朝の静かな城内を中庭へと進んでいく。
いつもより早く目が覚めたから、待ち合わせの時間までは余裕がある。
「なんか、遠足に行く小学生みたいだ」
目的や行き先が楽しいものなら、それでも問題ないのだが。
そんなことを考えていると、一気に視界が明るくなる。水の音に混じった小鳥のさえずりが耳に心地好い。朝、早く起きるのは苦手な方だが、こんな雰囲気はけっこう好きだ。
「あ……れ?」
目の錯覚でなければ、明らかに場違いな人がそこにいる。
念のため、中庭に続く入口を見つめ、もう一度噴水の方へ目を向ける。
やっぱり、錯覚ではない。
「こんな所で何しているんですか?」
「こんな所か。一応は、住居の一部なんだけどね」
確かにこの人にすれば、家なのだから失礼な話か。