月の民の唄
□月は光の扉を渡る
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「……夢では、ないんだけどな」
ここでようやく自分の声以外の音を認識したわけだが、現実逃避を決め込んだ脳は、自分に都合のいいように解釈を開始する。
「そうだね、夢の人が話すのは当然だよね」
「いや、本当に」
「大丈夫、大丈夫。これは夢」
妨害されてもなんのその。
現実逃避をしなければ何をしたらいいのだと言わんばかりに、声を無視する。
「アークが睨み付けるからいけないんだよ」
「そいうものなのか?」
アークと呼ばれた青年は、そこでやっと紗夜から視線を外す。
背中に流れる髪は太陽を弾く銀色で、紗夜よりも薄い青い瞳は透き通る海の色。年は紗夜よりは上だろう。
「そうだよ。ほら、もう気がすんだでしょ? 剣も降ろしてあげなよ」
青い髪の青年がアークの剣に手を掛けて無理に降ろさせる。
アークと同じ色の瞳と、紗夜とは違った青い髪をしている青年は、やはり紗夜よりは年上だろう。アークとは対照的で穏やかな笑を浮かべる青年は、アークと並ぶとどことなく面立ちが似ている。
「ごめんね、大丈夫?」
自身に差しのべられた手を好意だと解釈した紗夜は、素直にその手を借りて立ち上がる。
「あ、ありがとうゴザイマス」
「すまなかった。ここは立ち入り禁止の森なんでな」
「そんな格好の女の子が一人で森の中心部にいる時点で、大体の予測はつくんだけどね。いろいろあって、念のためにってことで」
無愛想な印象を受ける銀髪とは対称的に、青髪の男性は気さくに話し掛けて来る。一気に生命の危機から脱した紗夜にとっては、もはや神懸かって見える。
「僕はフェイト。こっちはアーク」
「私は紗夜。蒼姫紗夜です」
「じゃあ早速行こうか」
フェイトはクルリと反転して歩き出す。
「え? あの、行くって……、どこに?」
「お城だよ」
「……えっ、お城!?」
「行くぞ」
紗夜の混乱などなんのそので、アークもフェイトも歩き始めてしまう。仕方ないので紗夜も恐る恐る着いて行くことにする。
ここに追いていかれるのだけは、絶対に嫌だった。