月の民の唄

□約束の森でうワルツ
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「レオ! レオー!!」

静かになった森の中に歩未の声が響く。
肺に満たされた空気を全て使っても、望む声は返ってこない。

「どうしよう…」

あまりにも突然な出来事だったため、脳が状況を整理しきれずにいた。無理に脳を働かせようとすればする程に、混乱は増していく。
そんな歩未の瞳に、不安そうに此方を見る少年の姿が写る。

「あ……。えーっと、町の子かな?居なくなったっていう」

不安にさせてはいけない。
そこでようやく落ち着きを取り戻し、本来の目的を思い出す。

「うん」
「怪我はない?痛いところとかは??」
「大丈夫」

コクンと頷く少年には大した外傷も見当たらない。

「なにがあったのかな?」
「さっきのモンスターに襲われた後、ボクだけはぐれちゃったから…」

しゅーんと項垂れてしまう男の子を見て、歩未は優しく頭を撫でてあげる。

「心配しなくていいよ。わたし達が必ず見つけてあげるから」
「うん!」

歩未の言葉を聞いて安心したのか、男の子はパッと笑顔になる。
それにつられるように歩未も頬も緩んだ。

自然と伸ばされた手をしっかりと握ると、歩未は男の子と共に歩き出した。

しばらく歩いた所で、歩未は自分達が歩く音とは別に、草を掻き分ける音が混じっているのに気がついた。

またモンスターではという不安が歩未の心を過る。

だんだんと近づいて来る音が決断を迫る。

戦うか。

逃げるか。

それと同時に現れる焼き付くような緊張。

勝てるか。

逃げ切れるか。

歩未は目を閉じ、深く息を吐くと、男の子の手を強く握り、勢いよく振り返った。

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