はなし

□〜春、〜
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野花は、ずっと待っていた。


雲がゆっくりと流れる日のこと。


一匹の薄い桃色をした蝶が拙者の目の前を行ったりきたりしている。

一目で分かる。これは桃香殿であろう。何千もの蝶のなかに、蝶の姿をした桃香殿がまぎれても拙者は見つけられる自信がある。


手を宙へのばして、できるだけ優しく「どうか、休まれて下され」と言った。ぱたぱたと世話しなく羽を動かしていた愛しき蝶は、次第にゆっくりと手の中におさまった。

「なぜ、このようなお姿に。」

「(…ただ、なんとなくです)」

「ふむ…」


ぽんっ!

音を立てて拙者は念術を唱え煙をまとう。
蝶にへんげした。


「(…!?狐様…!?)」

「(あ、言ってませんでした?拙者は妖狐故、幅広く変化できるでござるよ)」

「(とても、素敵)」

「(桃香殿…行きましょう、どこまでも外へ)」

「(狐様)」



2匹の蝶は楽しそうに春の野を飛んでいく。花はゆっくりと二人を歓迎した。


野花は、彼らの見方だ。

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