はなし
□ヒマワリのようで。
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マチコさんは一枚の写真を、上着のポケットから取り出した。
そしてその写真を俺に突き出した。
「えぇ、あ、み、見ますよ?」
「ああ」
そっ、とその写真に目をやると驚くものが映った。
30人弱の小学生くらいの子ども達に囲まれたマチコさんが映っていたのだ。
マチコさんは白い歯を見せてピースをしながら、笑っていた。
(すごい、いい笑顔)
「…と、いうかマチコさんって!って!小学生のセンセイだったんすか!?」
「まぁな、いろいろあったが楽しかったな…。もっとも2,3年しかそこでは働いてなかったけれど。」
マチコさんはコップを口元にもっていった。
酒の匂いがゆたゆた広がる。
ここは、裏路地にある小さな酒場。
もう一度写真を見た。
マチコさんは笑っている。別人のようだ。
ヒマワリのように笑っている。
俺は、写真を返しながら口を開いた。
「写真ありがとうございました、その…マチコさん、」
「なんだよ青二才、どもるな。言いたいことがあるならはっきり言うんだ。」
そう言って、マチコさんは俺のほっぺを軽く叩く。少し痛い。
「いてて、辞めたことは後悔してないんですか?」
マチコさんの視線が少し俺の方に向いた。その鋭い視線は、なんだかその辺の男よりも強そうだけど、やっぱり綺麗にファンデーションやアイシャドーとか塗られてる顔を見ると女の人だな、と思う。
「後悔もなにも、わたしはいつでも自分のやりたいことをして、守るものを守ってるだけだよ。青二才ももう少し人生経験を積めば分かる。きっと。」
「…、その青二才ってやめて下さいよぉ!俺はケイゴですよ!名前で呼んで下さい!」
「青二才が、一人前になったら考えてやらんこともない。」
あっはっはっはっ、とマチコさんの笑い声が、小さな酒場に響いた。
・ヒマワリのようで・
(ねぇ、マチコさん、猫がまた寄ってきてますよ)
(昔から動物には好かれる体質なんだ。おーよしよし、可愛いな〜おまえは〜)
(にゃぁ〜〜〜ん)
(猫になりたい…)