第六次中間報告
―サルベージ計画―

究極AI『アウラ』の喪失は、第二次ネットワーク・クライシス、すなわち『アウラ』の誕生に次ぐ『The World』第二のパラダイムシフトだった。
2011年から2014年まで黄金時代を謳歌した『The World』は、『アウラ』の消失が確認された2014年末以降、まさに暗黒時代に突入していた。
サーバーダウンなどの続発するトラブルは、『The World』だけではなくネットワーク全体に、じわじわと波及していった。
その原因が究極AI『アウラ』の消失にあると知るCC社上層部は、しかし、この静かな危機に際して再び野望を抱いた。
すなわち『アウラ』を人為的に復元すること。
人間の手で究極AIを製造し、管理下に置くことで、次代のネットワーク社会のイニシアチブをとること。
それはまさに、かつて2005年の第一次ネットワーク・クライシスの折、『アルティメットOS』を掲げてネットワークの覇権を制したアルティメット社およびCC社の夢の再来であった。
こうして『プロジェクトG.U.』は、CC社上層部の肝煎りで正式に発足したのである。
予算は無尽蔵。
選りすぐりのエンジニアやAI学者、その道の専門家たちで構成されたスペシャルチームだった。
私、番庄屋淳もまたCC社の社員の代表としてプロジェクトの責任者となった。
プロジェクトの目的は『アウラ』の復元。
こうして『G.U.』の『RA計画』は開始された。
『RA計画』とは、2010年の『モルガナ事件』で、『カイト』の腕輪の力によって破壊され、データの海に散逸した8つの『モルガナ因子』をサルベージすることだった。
『モルガナ因子』を1つずつバラバラの状態で「PCデータ」に封入することで、プレイヤーの手によってコントロールできるようにする、というものである。
これにはサンプルとなる先例があった。
すなわち第一相『スケィス』に癒着していた『楚良』のプレイヤーの精神。
および猫型の放浪AI『ミア』に癒着していたと思われる第六相『マハ』である。
この『プロジェクトG.U.』において、決して外すことのできない1人の男がいた。
天城上太郎。
若干19歳にして、経済産業省の知能情報部からCC社に引き抜かれた超エリート。
彼は、まさに早熟の天才だった。
私と天城は、到底「馬が合う」というようなタイプではなかったが、結果的に、お互いの知識と能力を補い合うような関係でプロジェクトを推進していった。
私と天城は『G.U.』の両輪だった。
しばしば歳の差など関係ない激しい議論を交わしながら、私の心には、天城に対する尊敬と嫉妬、軽蔑の入り乱れた不思議な感情が芽生えていった。
私と天城はネットワーク内を捜索し、ついに散逸した『モルガナ因子』の1つを発見する。
それは『メイガス』――
通称『増殖』の因子であった。
試行錯誤の末に、我々は『モルガナ因子』を素体である『The World』のPCに定着させることに決定した。
そうして完成したプロトタイプは、『モルガナ』の『八相の碑文』から名を取って『碑文使いPC』と名づけられた。
このとき完成したのは『増殖』の『碑文使いPC』と呼称された。
だが私と天城を含めて、プロジェクトの誰一人、その『碑文使いPC』を「使う」ことはできなかった。
そのPCで『The World』にログインすると、堪え難いほどのめまい、吐き気、頭痛に見舞われるのである。
『モルガナ因子』は――『スケィス』と『楚良』のケースのように、確かに人間の精神と高い親和性を示す。
しかし、それは「選ばれし者」に対してのみなのではないか……?
天城の推論はこうであった。
『モルガナ因子』は定着するプレイヤーを選ぶ。
どのような条件かは不明だが、『モルガナ因子』はある種の人間だけを『認める』のだと。
であれば、その8名の『適格者』を探し出すこともまた『プロジェクトG.U.』の重要な課題となる。
天城の提言によってセキュリティ管理部内に『適格者』捜索チームが設けられ、『The World』のプレイヤーの洗い出しがはじまった。
このとき『楚良』のプレイヤーが既に『The World』を解約していたのは不運であった。

エルク「ミア!!」
カイト「……」
エルク「良かった…ミア帰ってきたんだ」
ミア「エルク!」
ミア「珍しい腕輪してるね」
カイト「…!?」
ミア「ちょっとイイ?」
エルク「ミア…まさか記憶が」

私と天城は残り7つの『モルガナ因子』のサルベージを続けた。
『スケィス』『イニス』『フィドヘル』『ゴレ』『マハ』『タルヴォス』『コルベニク』。
このうち『マハ』の因子は、前述した猫PCの『ミア』に再び定着しているところを発見。
猫PCを破壊することで摘出に成功した。
そうして慎重に『碑文使いPC』を製作していき、ついに8体すべてが完成するに至った。
あとは、それぞれの『碑文使いPC』を『適格者』にコントロールさせ、『モルガナ八相』の力を発動することで、天城によるアウラ復元プログラム――『RAプログラム』を起動できるはずだった。
"理想郷への門"
―Gateway to Utopia―
我々『プロジェクトG.U.』の目指す理想郷が、まさに手の届くところまで来たのである。

第六次中間報告
作成者 番庄屋 淳

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