めいん。

□●タワムレ
2ページ/3ページ



《タワムレ》


「工藤君、私がいなくなったらどう思う?」


金曜日の放課後。
彼は用があるとかで、学校から真っ直ぐ、この阿笠博士の家に来た。
今日は珍しく、あの小さな探偵さんたちはいない。彼らには聞かせられない話をするらしく、うまく躱してきたようだ。
しかし、目的の阿笠博士は居なかった。買い物にでも行っているのだろう。
彼は「ったく…」とぼやきつつ、暇を持て余してボールで遊び始めた。
しばらく見事なリフティングを続けていた彼に、私はいきなり先程の問い掛けをしたのだった。

「はぁ?」

相当驚いたのか、彼は宙に浮いたボールを取り損ねた。ボールは2、3回跳ねて床に転がった。

「いきなり何だよ」
「別に。ふと思っただけよ」

…思いの他、反応がいい。
心の中で満足しながら、それに気付かれないよう、素っ気なく答える。

「お前、また自分の居場所はここじゃないとか言い出すんじゃねぇーだろーな?」
「違うわ。むしろ私の居場所は、ここしかないもの」

ここを否定したところで、私に行く所なんてない。
結局は甘えているだけ。
でももうひとつ、理由がある。

「で、工藤君?私がいなくなったらどう思うの?」
「どうって言われても…」

彼は困っている。
そんな彼を見ていると嬉しくなってしまう私は、もうどうかしているのかもしれない。

私の悪ふざけは、ここからが本番。

「じゃあ、少し質問を変えましょう」

私の悪い癖が疼く。

「毛利さんがいなくなったら、どう?」
「なっ…!?」

自分でも意地悪な質問だと思う。
だけど、彼の困った顔がもっと見たい。

「私と毛利さん、どっちがいなくなったら哀しい?」
「ど、どっちってどーゆーことだよ」

ほら、困ってる。
そう、もっとうろたえて…?

「そうよね、どっちかなんて関係ないわよね。だって、毛利さんの方が哀しいに決まって―――」
「んなワケっ!」

突然大声を出したのは、もちろん彼。
私は彼の顔を、わざと不思議そうに見る。
すると彼は気まずそうに視線を逸らして、

「……ねぇよ」

と、小さく言った。
私は笑みが零れてしまいそうな気持ちを押さえ付け、

「そう」

とだけ返して、自分の部屋へと向かった。



あの言葉が聞きたかった。
私が、あの人に一瞬でも勝てる瞬間。
だから貴方に困って欲しい。
困らせて、悩ませて、迷わせて、惑わして。
貴方の思考を私で一杯にしたい。
だって私は、



貴方を愛しているから。




→あとがき


次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ