めいん。
□◇無神論者たちの聖夜
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『無神論者たちの聖夜』
街がやたらと華やかでうるさいと思っていたら、今日は『聖誕祭』だということに気付いた。
休息を取ると言ったら、
「気が利くじゃないか!」
と、スタンに言われた理由がようやく判った。
しかし、だから何だと言うのだ。
フィリアは判る。アイツは司祭だ。聖誕祭を祝う理由がある。
問題は他の連中だ。
敬虔な信者でもないのに今日という日を楽しみ、祝うのは何故だ。
そこら中で聞こえる聖歌も、街を彩る飾りも、眩しい電飾も、一体どこへ向けたものなのだろう。
「…ふぅ……」
あてがわれた部屋のカーテンを締め切り視覚的なものは防いだが、嫌でも耳に入ってくる喧騒に集中力が途切れる。
それともこの本に魅力がないせいなのか。
どちらにせよ暇を持て余してしまうのは確かだ。
剣の稽古に切り替えてみるか。
そう思い、シャルを手に取ろうとすると。
『ぼっちゃん、アトワイトです』
シャルがそう言った後、すぐに部屋のドアがノックされる。
「リオン、いる〜?」
「何の用だ」
「今、手が離せないの。ちょっと開けてくれない?」
仕方なしに席を立ちドアを開けると、ルーティが両手にトレイを持って立っていた。
「下に居たら宿の人がアンタにもって。ホットチョコレートだけど、飲む?」
差し出されると、ふわりと甘い香り。
少し苛立っていた気持ちを落ち着かせてくれるかもしれない。
「…入れ」
ルーティを招き入れ、ドアを閉めたところで気が付いた。
「お前は外にいかなかったんだな」
同部屋のスタンは外の様子を見て来ると言って飛び出して行った。
他の者も誘うと言っていたから、隣の部屋には誰もいないと思っていた。
「まあね。アンタもそーみたい…って、聖誕祭を楽しむ柄じゃないか、アンタも私も」
一緒にするなと言いたいところだったが、こればかりは否定できなかった。
ルーティはいつもうるさいぐらい元気なのに、たまに驚く程冷めた目をする。
上辺の明るさで本心を隠し、決して弱みを見せない。
他人に踏み込ませないように、そして何より自分が踏み込まないようにブレーキをかけている。
コイツが身に着けた処世術なのだろう。