めいん。
□◎願い事をする国
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『願い事をする国』
国の一角にある、それほど値段が高くなく、食事が美味しいと評判のホテルの一室。
そこに机に向かって、赤く細長い小さな紙を見つめている人物が一人。
その表情は少し困っているようで、小さく唸る声が聞こえる。
「キノ、決まった?」
部屋の扉の近くに居るエルメスが、その唸っているキノに話し掛けた。
ちなみに、エルメスにもキノが見つめている紙と色違いのものがハンドルに提げられている。こちらは青色だ。
「いや、全然思い付かない。困ったな」
「どうするの?」
「明日の夕方までには何とかするさ。だから今日は…」
ばふんっ、とベッドが音を立てた。
「もう寝る。おやすみ、エルメス」
「ちょっとキノ!電気ぐらいは消す!」
* * *
事の発端は、入国手続きの時だった。
「はい、どうぞ」
一通りの審査が終わった後、審査官から笑顔で渡されたのは、赤と青の細長い小さな何も書いていない2枚の紙。
「あの、これは一体?」
「おや?旅人さん、明日の祭りが目当てなんじゃないのかい?」
「いえ、違います。よかったら教えて頂けませんか?この紙のことも」
快く引き受けてくれた審査官は、説明し慣れているのか、要領良く話していく。
明日は年に一度の星祭りだということ。
その日には先程渡された紙に願い事を書いて、木の様に背の高い植物の茎にそれを吊すことが習わしだということ。
「…なるほど。残念ですがボクは―」
願い事には興味ありません、とキノが言おうとした時。
すかさず審査官はこう付け加えた。
「そうそう、紙に願い事を書かないと会場に入れないからね。そこに出てる屋台は全部タダだから、好きなだけ利用するといいよ」
「そうさせてもらいます」
目の色を変えて答えたキノを見てエルメスは小さな声で、
「くいしんぼー」
と呟いた。