めいん。
□◇ありがとうの気持ち
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『ありがとうの気持ち』
それは、いつもの朝の洗濯物を干し終えた時だった。
「父の日?」
「そうだよ!だから僕たち、スタンさんにプレゼントあげたいんだ!」
風に遊ばれるシーツで作られた迷路で遊んでいたアレクが、得意気にルーティに言った。するともう一人、赤毛の女の子カリンがシーツの隙間から顔を出す。
「ねぇ、ルーティ。何がいいと思う?」
正直、ルーティは困っていた。
スタンにプレゼントなどあげたことがないし、ましてや父の日だ。想像がつかない。
何を、どう祝うんだろうか。
「ルーティ…?」
「えっ?あっ、ごめんごめん」
少し考え込んでしまっていたルーティは、心配そうなカリンの声で我に返った。少し顔に出てしまっていたらしい。
心の隅で反省し、カリンの頭をぽんぽんと撫でて目線を合わせるためにしゃがむ。
「アンタ達からのプレゼントなら何でも喜ぶと思うわ」
もっともらしい答えだが、逃げの回答。ルーティにはこれが精一杯だった。
「ホント?」
「アイツ単純だもん。間違いないわね」
実際、ちゃんとスタンは喜ぶだろう。しかも心から。
人の好意は無下にしないし出来ないから、素直に受け止めてくれる。それが子ども達からだったら尚更だ。
「よーし!じゃあみんなで話してくるよ!」
元気のいいアレクは、カリンの手を引いてテラスを出ていった。
すぐに下の方から声がして、集まった子ども達は畑の横に小さな円を作る。
「おー、早速やってるわねぇ」
スタンは朝から買い出しに出掛けていていない。今が恰好の話し合いの時間なのだ。
「父の日、かぁ…」
母親像は幼い頃から何となく想像することが出来た。ルーティがいた孤児院にはシスターがいたからだ。
それに彼女も女性だ。思い浮かべることは出来る。
しかし父親となると話は別。全く想像がつかない。
言葉を交わしたことがあるのは父親の方なのに。
もっとも『親子』として話したのは一瞬、「お父さん」と呼んだのは一度だけだが。
父親がどのような役目を持ち、どのような人物であるべきなのかが判らない。
スタンが間違っているとは思わないが、正しいのだろうか。
「…でも、スタンがよくやってくれてるのは事実よね」
本当はもっと世界を見て周りたいはずなのに、こんなところに腰を落ち着かせてしまった。感謝してもし切れない。
それを伝えるいい機会だと思えば…
「…よしっ」
ひとつ気合いを入れると、ルーティは洗濯籠を抱えて部屋の中へ入っていった。