めいん。
□◇そんなんじゃない、だけど。
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それは勝手に輝いているんじゃないかと思う程、眩しく見えた。
《そんなんじゃない、だけど。》
「キレイですね〜」
「!!」
いつの間にか、チェルシーが紙袋を抱えて隣りに来ていた。買い物が終わったらしい。
目の前のモノに気を取られて気付かなかった。
「私もいつかこんな素敵なドレスを着てウッドロウ様と…きゃあ♪」
一人で盛り上がっているチェルシー。
少し嫌な予感がする。
「でも珍しいですね。ルーティさんがウェディングドレスに見とれるなんて」
…やっぱり突っ込まれたか。
ショーウィンドウに飾られているのは純白のウェディングドレス。腰から裾が広がっている、いわゆるプリンセスラインと呼ばれる典型的なウェディングドレスだ。
こんなものを見ているなんて、自分でも突っ込みを入れたいくらい。
「別に見とれてなんかいないわよ」
「でも、あつーいまなざしでしたよ?」
確かに気を取られていたのは事実だけど、そんな熱心に見てしまっていたのだろうか。
自覚がないのは、ますます自分らしくない。
早く言い繕って、さっさとこの場を離れないと。
「そんな訳ないじゃない。私はただ―――」
「あれ?二人共、何してるんだ?」
……マズイ。一番居合わせたくないヤツが来てしまった。
その居合わせたくないヤツ―スタンは、不思議そうにこっちを見ている。
「ルーティさんが、このウェディングドレスを見つめていたんです」
「違うって言ってるでしょ!」
「へ〜、ルーティが」
何故か、まじまじとドレスを見つめるスタン。
あまりにも真面目な顔をしてるから、何だか恥ずかしくなってきた。
「誤解してるみたいだけど、私はね」
「あっ、でもさ」
突然思いついたようにスタンが声を上げた。
そして。
「このドレス、ルーティには似合わないんじゃないか?」
………え…?
「スタンさんっ!いくらなんでも言い過ぎですっ!」
「えっ、でも俺は…」
「俺はじゃありません!ルーティさんだって―」
「いいわよ、チェルシー。ほら、みんなの所に戻りましょ」
何故か怒っているチェルシーを止めて、足早にそこから離れた。
何だ。
何でこんなに嫌な気持ちになるんだろう。
ああ言われるのは当たり前じゃないか。
「おいっ、ルーティ!」
追って来たスタンに腕を掴まれた。
歩みは止めたが、振り向きはしない。というか、振り向けない。
今、スタンの顔を見たら何かが溢れてしまいそうだから。
「何怒ってるんだよ」
「怒ってなんかいないわ」
そう、これは本当だ。
怒ってはいない。
ただ…ショックだった。
そして、ショックを受けてる自分にもショックだった。
少し前の私なら、見向きもしなかったウェディングドレス。
なのに、純粋に綺麗だと思ってしまった。
今更女の子ぶったって意味ないのに。
「嘘だ、すっごい怒ってるだろ」
「…べっつに〜。アンタもドレスが似合わない私なんかほっとけば?」
いつも通りに押さえなさい、ルーティ。
ああ、でもどうしよう。
泣きそうだ。
「…何言ってるんだ?」
ふいに腕を掴むスタンの手が緩んだ。
コイツ、本当に判ってないの?
呆れた私は少し冷静になれたらしく、スタンの方へ振り向くことができた。
「だーかーら!私にドレスは似合わないんでしょ?」
「なっ…!誰もそんなこと言ってないだろ!」
「はぁ!?だってアンタさっきそう言ったじゃない!」
「俺は、あのドレスより隣りの方が似合うって言いたかったんだよ!」
………………はい?