めいん。
□●forget-me-not
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その夢は花の香りがした。
『forget-me-not』
毎日何かに驚いて。
毎日何かに感動して。
毎日何かで笑っていた。
もちろん怖いこととか、不安なこともあった。
でも、『みんな』と一緒にいるのが楽しかった。
そう、こうやって走るのが好きだったんだ。
みんな楽しそうに笑ってる。
それを見ると、俺は嬉しくて。
帰りたいはずなのに、帰らなくてもいいかなとか、ちょっと思っちゃったり。
だから、だからさ。
消えないで。
俺の中から消えないで。
お願い。
「私も散る」
判ってるつもりだった。
でもやっぱり『つもり』止まりだった。
悲しいよ、そんなの。
待って!
待って!
待っ――――
伸ばした手は空を掴んでいた。
目線の先には見慣れた天井。
でも、今日の目覚めはいつもと違っていた。
寝起きなはずの頭が妙に冴えている。
思い出した。
あのキーホルダーが気になったのはきみに似ていたから。
文句を言いながらも、最後まで付き合ってくれた。
きちんとお礼をいってなかったね、ありがとう。
キミはちゃんとこっちに来て、俺に会いにきてくれていた。
キミは俺に気付いてくれていたのに、当の俺は忘れていて本当にごめん。
もう会えないかもしれないけど、こっちで楽しく暮らせることを祈ってる。
そして君。
君は君が言っていた通り、散ってしまったんだね。
でも散り際の君の顔は穏やかで。
本当に穏やかで。
きっと上手くいったんだ。
何もかも上手くいったんだ。
だって君の願いも今、叶ったから。
今までちゃんと思い出せなくてごめん。
もう大丈夫。
ずっと忘れない。
それが君の願いだったから。
「……キアラ」
空を掴んだと思った手には、花びら。
はらりと儚く、綺麗に零れる。
それは、桜がほとんど散ってしまった、中学の入学式の朝のことだった。
END
→あとがき