めいん。

□◎自己満足の勇気
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『自己満足の勇気』



あれはきっと、今まで生きてきた中で一番勇気を出した行動だったと思う。

それがたとえ、手を挙げるだけのことだったとしても。








「学級委員に立候補してくれる人はいないザマス?」




新しい学年。
新しいクラス。

いつもなら憂鬱なその変化も、この年だけは違った。


彼女と同じクラスになれた。


それは『偶然』なんていう安っぽい言葉じゃなくて、『奇跡』と呼びたいぐらいの出来事だった。

ずっと遠くにいた彼女が、少しだけ近くなった気がする。
あくまでも『気がする』だけだが。




「はいっ」




突然、凛とした彼女の声が響いた。


…ああ、そっか。今は新しい委員を決めていたんだった。




「日下部は去年も学級委員をやってたザマスね?」

「はい。楽しかったので、今年もやりたいと思って」



そうだ。
クラスは違えど、同じ学級委員だったから彼女を知ることが出来た。

半ば押しつけられたその役目を少し楽しめたのは、彼女の存在があったからだ。



「よろしい。女子で他に立候補は?」



手が挙がる気配はない。

それはそうだろう。
みんな彼女の完璧さを知っているんだから。



「では、女子の学級委員は日下部に決定ザマス。あとは男子ザマスね」



すると後ろから、ひそひそと話す声が聞こえてきた。





『これってチャンスじゃね?』

『だよなー。あの日下部さんと、だもんなぁ』


うん、そう思う。



『でも学級委員ってところが引っ掛かる』

『正直めんどいし』

『図書委員とかだったら速攻手、挙げるのに』


確かに大変な仕事だった。


……でも、やり甲斐があったのも事実で。



『1年の時、日下部さんと組んでたヤツがさ、軽い気持ちで引き受けてやってたら、ちゃんとやれって怒られたらしいぜ』


何言ってるんだ。
そこが彼女のいいところじゃないか。


何事にも真剣で、まっすぐで、強い意思を持ってることが、彼女の魅力なのに。





「どうしたザマス?いないザマスか?」




彼女に近付きたい。

でも役立たずの自分のことだ。
足を引っ張ってしまうかもしれない。
迷惑をかけるかもしれない。

それは、嫌だ。






嫌、だけど…。




『ほら挙げろって』

『えぇっ!?オレかよ!』




あんな考えを持ってる人が彼女の隣りにいることに耐えられる?






それこそ嫌だ。

絶対に、嫌だ…!











「……あ、あの…僕やります…」












おずおずとしか挙げられない右手。

それでもあれは、精一杯の勇気の形だったんだ。













あの時、勇気を出して本当によかったと思ってる。

そのお陰で世界が広がったから。

そして、変わることが出来たから。




でも人間というのは欲張りな生き物で。

もっと違う世界を見たくなる。もっと変わりたいと願うようになる。





だから。
僕は言うんだ。そう決めた。






結果がどうなるかは判ってる。

それでも貴方に伝えたい。
この想いが変わっていくのを感じるから。


だって最後の一押しをしたのは、貴方じゃないんだ。



僕もあの人と同じ。
けじめをつけたい。



だから、この想いが綺麗なうちに。

あの時以上の勇気を出して。今まで生きてきた中で一番の勇気を。










「まろんさんが好きです」











END




→あとがき






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