めいん。
□◎願い事をする国
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祭り当日は、雲ひとつない晴天になった。
毎年この日は晴れるように国中でお祈りするんです、と朝食の時ウェイターに教えて貰った。
それを聞いて部屋に戻ったキノは、
「よしっ」
赤い紙に何かを書き始めた。
「おっ、決まったみたいだね。何て書くの?」
「こういうものは言わない方がいいんだよ、エルメス」
「…じゃあ書いてもらうためにキノに言っちゃった僕の願い事は?」
「叶わないだろうね」
「ひどっ!」
青い紙には
『交通安全。 エルメス』
と、書いてあった。
夕方になって、キノとエルメスは赤と青の紙を持って、国の中央にある公園に向った。そこが祭りの会場だった。
入口で紙を見せると、奥に案内された。
「これは…」
「すごいね〜」
そこには色とりどりの紙に飾られた背の高い植物が、何本も植えられていた。
国中の願い事が集まっているので、なかなかの量がある。
紙の重さで少ししなった茎に風が吹き、さらさらと涼しい音がしている。
「旅人さんも、お好きな所に吊して下さい」
キノは持っていた2枚を一番奥にある、まだ紙の少ない1本の手が届く高さにくくり付けた。
どうやら高いところに吊す方がいいらしく、脚立を使って出来るだけ高い位置を取ろうとする人がたくさんいる。
その様子をキノが見ていたのは、ほんの少しの間だけで、視線はすでに屋台に向いていた。
「キノ、何か目が怖い」
キノが、出店している屋台を制覇しつつある頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。
ここからが祭りの本番だ。
合図と共に国中の明かりが全て消され、回りは本当に真っ暗になった。
その代わり、今まで見えなかった小さな星までもがくっきりと見えるようになる。
会場には、星を説明するアナウンスや昔話の朗読、祭りの歌が流れる。
人々は星を眺めながら、それらに耳を傾けていた。
「この国では、あの星の集まりを『天の川』と呼ぶんだね」
「『ミルキーウェイ』って呼んでたとこもあったよ。どっちにしても、なかなかのセンス」
時間はゆったり流れる。
「キレイだね」
「うん、キレイだ。こうして星を見るのも悪くない」
1人と1台も、それなりに楽しんでいた。